水の中のつぼみ : 映画評論・批評
2008年6月24日更新
2008年6月28日よりQ-AXシネマにてロードショー
新人監督のユニークなセンスが際立つ“少女映画”にして“郊外映画”
シンクロナイズド・スイミングをモチーフにした青春映画だが、華麗なシンクロ場面はほんのわずか。「ウォーターボーイズ」のように、登場人物が一致団結して何かを達成するスポーツ・ドラマでもない。セリーヌ・シアマというフランスの新人女性監督が、思春期の女の子3人の生態を生々しく綴った“少女映画”である。
何が生々しいって、少女たちの肉体の撮り方が生々しい。15歳の主人公マリーはガリガリのやせっぽちで、大人顔負けの豊満ボディを誇る上級生フロリアーヌに憧れている。そのフロリアーヌは高飛車な態度からはうかがい知れない秘密を抱えており、マリーの親友のおデブなアンヌは片思い中の男子部員に素っ裸を見られ、イタい行動を連発してしまう。シアマ監督はそんな心と肉体がアンバランスな年頃の少女たちの欲望や不安を、彼女たちが必然的に肢体をさらすプールという象徴的な異空間や更衣室、シャワールームにカメラを持ち込んで描いている。
何かの弾みで壊れそうな日常を悶々と過ごす少女たちに、アドバイスを与えたり、反面教師になるような大人たちが一切登場しないことも、この映画をいっそうユニークなものにしている。郊外の新興住宅街らしき空っぽの空間を、少女たちはふわふわと気ままに泳ぎ、スリリングな秘密の冒険を繰り広げていくのだ。そう、本作をフランス映画らしい“郊外映画”として楽しむのもいいだろう。エリック・ロメールの“郊外映画”の傑作「友だちの恋人」を引き合いに出すあたり、この監督のセンスはちょっと面白い。
(高橋諭治)