「どうしたって比較してしまう」クライマーズ・ハイ うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
どうしたって比較してしまう
映画版「クライマーズハイ」を鑑賞後、少し興味があったので、ドラマ版のほうも見てみた。まさに、クライマーズハイ。熱いうちに登りましょう。というところか。
違いは細部にあるようだが、社長と、悠木との因縁がないドラマ版には、かつて部下につらく当たって死なせた過去が強調してあり、映画版では、墜落現場から戻った記者が受けたトラウマに苦しみ、錯乱しながら事故に遭った経緯に転換してある。どちらも重みとしては同じに思える。
違いは、部下の一人に尾野真千子を配した映画版のキャスティングに対して、死んだ部下の遺族であり、悠木を恨む石原さとみをキャスティングしたドラマ版というところか。
どちらも、殺伐とした男ばかりの絵面を少し和らげたいという、製作側の意向が働いたようだ。
新聞社を辞める決意をその場で表明し、繋いだ鎖を放とうとしない社長の山崎努は、偏執的な印象で、悠木が落とし前をつけた印象を強調した映画版。
一方、投書をしたことを後悔して詫びる石原さとみを励まし、新聞記者になるまでここで待ってると告げ、左遷を受け入れるドラマ版。
では、原作はどうなの?というところだが、今のところ読む気にはなれない。事故から20年後の夏に、おそらく定年を迎え、かつての親友の息子と登山をする悠木のアタックの様子と、事故当日からの数日間をシャッフルして構成する筋立ては一緒なので、原作を踏襲したのだろう。
大きな違いと言えば、販売部や、社長など、記者の現場と距離のある人物に不快で偏執的な悪役を配置し、その対立軸を一つの見せ場とした映画版と、明確な悪役を配せずに、顛末を追ったドラマ版というところか。佐藤浩市の泣きの演技も珍しい。
どちらも役者の芝居が光り、それぞれにいい味を出している。甲乙つけがたい出来だと思う。
2018.8.20