「村岡希美さん」クライマーズ・ハイ のんあるウメッシュさんの映画レビュー(感想・評価)
村岡希美さん
たったワンシーンだけの出演だが、名もない遺族を演じた村岡希美さんの存在が作品に大きな影響を与え、その後の展開のカギとなっている。遺体を引き取り自宅へと帰る道中、北関東新聞社に立ち寄り新聞を求める。販売所では新聞が買えず、主人公たちがまさに新聞を作っている現場にフラリと入ってきてしまう。小さな息子の手をつなぎ、新聞が欲しいと訴え続けるその声は良く通り、強い意志を感じさせるのとは裏腹に、表情は一貫して呆然とし目の焦点が合わない。僅かにも気を抜けば、その場に崩れてしまう程の危うさと儚さ。涙を一滴でも流せば二度と止まらなくなる慟哭。弱さを表出することもできない程、自分を見失ったまま、ただ一つ、彼女を動かす原動力は、夫を奪った事故の状況を、真実を知りたいという思い。 だがその事情は、彼女が結城から新聞を受け取り、何度も頭を下げながら新聞社の前に停めた黒塗りの霊柩車に乗り込む姿を見て初めて合点がいくのだ。観客も結城も、そうだったのか!とうなってしまうところだろう。時間にしてほんの5、6分のシーンだと思ったが、彼女の背景、今後の人生までも一瞬で鮮明に心の中に流れ込んでくるような圧倒的な衝撃を受ける。村岡希美さん、本当に恐るべき女優との出会いであった。この作品の名シーンの一つだと思う。後日、『アフタースクール』に出演している村岡さんを見たが、この時も堺雅人に向かって「いえ、特には」と放つたった一言のセリフが光っていた。
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