「踏み絵になって欲しくない」ブラインドネス ROXBURYさんの映画レビュー(感想・評価)
踏み絵になって欲しくない
映像、カメラワーク、テンポはもちろんのこと、人間の醜い極限のところ、悲惨な状況、権力とそれに従わざるを得ない状態、その沸点を越えたときのパワー、目に見えないところにある美しさ、目に見えないところにある人間の絆と関係、たくさんの極地にあるものを『シティ・オブ・ゴッド』でスラムのカオスとリアリティを見事に描ききったメイレレスが、またしても見事に描ききりました。
突然、映る景色が真っ白の光に覆われて目が見えなくなる、という伝染病が原因の映画ですが、原因についての怖さではなく、極限の状況に追い込まれたときの人間、そしてそれを乗り越えてその先にあるものまで、メイレレスは明確に描いています。
たまたま目が見えなくならなかった独りの人間への負担、忍耐、孤独、責任感、願い、希望を強烈に突きつけながら。
それはクドクドと説明してくるものではなく、一つ一つのシーンから感じさせ、考えさせてきます。
ときには果てしなくえげつない悲惨なシーンだったり、ときにはとんでもなく美しく高尚なシーンで。
確かに悲惨なシーンはかなり壮絶で怒りすら感じざるをえません。
だけど人間として、他人事ではないというか、決して作られた悲惨さではなく、似たような状況って、歴史の上でも、今世界のどこかでも、そして未来でも、人間が起こしてきたことだったり、起こる可能性が無いとはいい切れないものだとも思います。
でも、ラジオから奏でられる音楽を聞く人々姿、街をお互い頼りながら歩く中聴くピアノの音色があまりに眩しくて。
これでもかというくらい重厚なシーンを見せてきたのに笑いを観客に起こさせる余裕もあって。
あの素晴らしく希望溢れる、美しいラストに繋がって・・・。
文句なしの満点です。