ブラインドネス : インタビュー
「シティ・オブ・ゴッド」でアカデミー賞監督賞にノミネートされ、続く第2作「ナイロビの蜂」ではレイチェル・ワイズに助演女優賞をもたらしたフェルナンド・メイレレス監督。人間の根元的な姿を描き続ける監督が選んだ第3作は、全人類が盲目になり、混乱の中で欲望をむき出しにしていく姿を鮮烈に描いた「ブラインドネス」。本作について、来日した監督に話を聞く。(取材・文:佐藤睦雄)
フェルナンド・メイレレス監督 インタビュー
「見ることを学ぶこと、それこそがこのテーマです」
──「ナイロビの蜂」の原作であるジョン・ル・カレの「コンスタント・ガードナー」といい、このジョゼ・サラマーゴの「白の闇」といい、メイレレス監督は、人間の根源的な欲望あるいは欲望をむき出しにした硬質な小説を原作として選んでいますね。この原作に魅了されたポイントは?
「我々人類は文明を築き、洗練されて確固とした個を成立させ、そして礼儀正しく生きていると錯覚しています。しかし、その薄氷の下には獣のような“野蛮さ”がある。例えば、ハリケーンカトリーナのような災害が起こると、それが引き金となって人間は獣のような原始的な本性を露わにする。それいう点が非常に面白く感じられたんです」
──映画の冒頭で、ハイヒールを履き、バッチリと化粧をしていた女性たちが収容所に入ると、人に見られる必要性がなくなり、自分を飾らなくなることがとても興味深いですね。つまり、「セックス・アンド・ザ・シティ」の主人公キャリーとは対極の存在となるわけです。最初はハイキー気味な白っぽい世界なのに、徐々に灰色ががっていきます。そうした世界観を構築するために、スタッフとどのようなことを話し合ったのですか?
「そうですね。ステップ・バイ・ステップ、それこそスタッフ全員と十分に協議して、収容所での状況が一歩ずつ悪化していくようにプロダクションを構築しなければばらなかったのです。髪型も、顔のメイクも、衣装も、セットも、少しずつ灰色のグラデーションが黒みがかっていくかのように、“堕ちていく”さまをつくり出さないといけなかったのです」
──例えば、下着のブラジャーを着けない女性も出てくるわけですよ。
「もちろん、最後まで着けている女性がいるから、ブラについては、どこそこの時点でブラを外そうと申し合わせたわけではないですけどね(笑)」
──全キャラクターに役名がないわけですけど、撮影している最中、俳優たちをどのように呼んだのですか?
「たしかに、ジュリアン(・ムーア)、ヨシノ(木村佳乃)、ユースケ(伊勢谷友介)というふうに、俳優たちのファーストネームで呼んでいました。でも、俳優たちにとっては“名無し”であること、また過去やバックグラウンドがないことは、逆にとても挑戦的だったようです。俳優は、撮影に入るまで自分が演じるキャラクターの背景を知りたがるものですからね(笑)。この映画は、それまでの過去は重要ではなく、目が見えなくなるという状況下で、人物たちが現在進行形で体験することが重要なんですから」
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