ブラインドネス : 映画評論・批評
2008年11月18日更新
2008年11月22日より丸の内プラゼールほかにてロードショー
格差や貧困が生み出す暴力性や残酷な現実を乗り越える道を提示
メイレレス監督は、サラマーゴの原作と同じように、見えることと見えないことが生み出す現実を徹底的に突き詰めていく。感染者を隔離した収容所にはやがて権力者が出現し、女性が食糧の対価にされる。そんな状況が浮き彫りにするのは、人間の醜さだけではない。権力者はまだ見える世界を引きずり、それを模倣しようとしている。
だがその一方で、見えない者だけが共有できる感覚や感情が生まれる。ただひとりだけ目が見えるヒロインは、二重の意味で孤立している。しかし、彼女を中心とした擬似家族的な集団が、それぞれに見えることと見えないことの苦悩を乗り越えていくとき、他者との新たな関係が築き上げられていく。
原作では視力が奪われる病を踏まえて、登場人物たちが、「医者の妻」や「サングラスの娘」といったシンプルな記号だけで識別されていた。だが映像ではそれができない。そこでメイレレスは、アジア人や黒人や白人からなる集団を作り、世界の縮図とした。「シティ・オブ・ゴッド」と「ナイロビの蜂」で格差や貧困が生み出す暴力性や残酷な現実を描き出してきた彼は、この新作でそれを乗り越える道を提示している。
(大場正明)