ランジェ公爵夫人 : 映画評論・批評
2008年3月25日更新
2008年4月5日より岩波ホールにてロードショー
身体だけで生きてきた男と頭のなかの世界で生きてきた女の愛
お互いに相手を自分のものにしようと駆け引きを繰り広げるランジェ公爵夫人とモンリボー将軍。だが、ふたりは必ずしも同じ土俵に立っているわけではない。
公爵夫人は、貴族の優位が失われていく時代に、既成の秩序にすがりついている。その既成の秩序とは、平たく言えば、貴族は頭で思考し、民衆は身体で行動するということであり、彼女は頭だけで生きている。一方、将軍は、ナポレオン敗退の後、アフリカの奥地を探検し、九死に一生を得て祖国に帰還した。つまり、彼はこれまで身体だけで生きてきた。
公爵夫人にとって社交界とは、頭のなかの世界であり、彼女は知略で将軍を翻弄する。これに対して、隠れた権力を持つ将軍は、力で夫人を拉致する。そんなせめぎあいのなかで、公爵夫人は、愛するための身体を獲得し、将軍は、愛するための感情に目覚めていく。
だからこそ、公爵夫人は、修道女にもなり得るし、将軍は、彼女の歌声に心をかき乱されもする。彼らの愛が成就されるのかどうかは、もはや問題ではない。この映画では、愛を知らなかった男女がそれを発見していく過程が、内面の変化や身体の動きを通して、実に鮮やかに描き出されている。
(大場正明)