「余りに無謀」ハンティング・パーティ odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
余りに無謀
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、とりわけ1995年のスレブレニツァ虐殺にスポットを当てた映画です。脚本のきっかけになったのは2000年10月のEsquire誌に載ったスコット・アンダーソンの告発記事でした。内容は戦争が収まった後もハーグの国際犯罪者裁判所により起訴された94人のうちのほんの48人しか捕らえられておらず大量虐殺、凌辱の首謀者だったラドヴァン・カラジッチすら放免状態でした、アメリカは懸賞金を付けたものの裏ではCIAとの密約の存在が示唆されます。
実際にはカラジッチは映画公開後の2008年7月にベオグラードで逮捕されている。元々は医者でコロンビア大学にも学んでいたそうだ、逮捕時には偽名でクリニックを開業、雑誌に寄稿したり自身のウェブサイトまで立ち上げていたというから驚きだ。
映画では長年のコンビだった戦場カメラマンとレポーターを軸にカラジッチを追い詰めるプロットに変っています。ただ、追及の動機が懸賞金だったり現地の愛人を殺された恨みだったりとジャーナリストの正義感など青臭いと言わんばかり、リチャード・ギアのしょぼくれ感もありパッとしません。それに加えて丸腰の素人が行き当たりばったりで事にあたるプロットでは余りに無謀と言うか、サスペンス感以前に無茶苦茶でドラマに没入できませんでした。
カラジッチは長い裁判の末2019年3月に終身刑が確定した。ここまで白黒を点けたがらないのには民族闘争の収拾の難しさがあるのだろう、紛争はセルビア人の非道だがナチス統治時代はセルビア人が迫害を受けているから因縁の深い話、カラジッチ逮捕で沸くサラエボ市民のいる反面、擁護派のデモ隊と警官隊の衝突が起きている、映画のようなリンチ容認ではカッコはつくものの民族間の反目が再燃しかねない。そういう意味ではやはり部外者目線、無責任な脚本と取られても致し方ないだろう。