劇場公開日 2008年7月19日

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「今の若い女の子の気持ちをよくとら捉えつつも、前半の強引な展開が残念。蒼井優ののびやかな演技は素晴らしいかったです。」百万円と苦虫女 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5今の若い女の子の気持ちをよくとら捉えつつも、前半の強引な展開が残念。蒼井優ののびやかな演技は素晴らしいかったです。

2008年11月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 いま旬な女優、蒼井優を見たくて、リバイバル上映を見てきました。。

 女性監督だけに、タナダユキが描く人物たちは、今の若い女の子の気持ちをよくとら捉えていると思います。主要なキャラになるほど、自己表現が苦手で人とぶつかるものだから、人との交わりを避けようとします。特に主人公の鈴子は、その代表格。その不器用な性格のゆえに、100万円貯まったら引っ越して、人間関係を一新するという『ルール』を自らに化したのでした。
 きっとそういう気持ちって、等身大の主人公に同じ20代の女性なら、あるよね~って共感するシーンが多々あることでしょう。でもそれって、傷つきたくないから積極的に行動しているようで、実は降りかかる火の粉から逃げ回っていることなんだということを鈴子が気づいていくストーリーなんですね。
 その微妙な主人公の心理を蒼井優がのびやかに演じていて、さすが上手いなぁと思いました。
 『フラガール』のポジティブな熱演とは違った、細やかな性格描写に彼女の演技の冴えを感じさせます。

 但し脚本と脚本のツメの甘さは感じます。
 海の家や農家の手伝い、ホームセンターのバイトなんかでアパート借りて短期間に貯金ができるほど世の中は甘くないのです。そして鈴子が一番負い目を感じて、引っ越そうとする前科のところも、ルームシェアーしていた同居人の家財道具を勝手に処分したことを刑事告訴された程度。盗みや傷害などもっと重い罪でないと、鈴子が世間から逃げ回る動機になり得ないと思います。

 鈴子の性格も、当初すぐ切れてため口ついていたのが、途中から大人しく無口になります。弟の拓也も最初はすごい悪口ばかりの悪ガキでしたが、鈴子が自分へ悪態を浴びせかけてくる連中と闘うところと遭遇して以来、なんか「いい子」に変身してしまいます。
 拓也はいじめていて、その憂さを姉にぶつけていたのかもしれません。ただ登場人物の変化が唐突に見えてしまうところをもう一段練り込んでほしいなぁと感じました。
 鈴子が世間から逃げていたことを拓也の手紙から悟るわけですから、拓也がどういじめに立ち向かうかというところは手紙だけでなく、きちんと描いてほしかったですね。

 冒頭から中盤は、強引でわざとらしいストーリー展開で、やや眠くなったものの後半のバイトで知り合った亮平との恋を描いたところはよかったです。
 お互い不器用な鈴子が亮平が、だんだんお互いを理解しあえて、恐る恐る気持ちを打ち明けるところはなかなか見応えアリです。
 でも問題は、100万円貯まったら鈴子は街から出て行くことを決めていたのです。二人の恋はもう終わりなのでしょうか?
 亮平は、鈴子をずっと自分の住む街に引き留めるべく、ある問題行動を起こします。けれどもその問題行動に鈴子は疲れて、ふたりの仲はピンチに!
 亮平のとった行動。そしてふたりの未来を暗示させるラストシーンを理解できるかどうかどこの作品の感想がクグッと違ってきます。
 ぜひDVDでラストシーンを見てください。

流山の小地蔵