マイ・ブルーベリー・ナイツ : インタビュー
「ブエノスアイレス」「花様年華」などの香港の巨匠ウォン・カーウァイ監督が初挑戦した英語劇「マイ・ブルーベリー・ナイツ」は、グラミー賞歌手ノラ・ジョーンズが映画初出演にして初主演を飾り、共演にはジュード・ロウ、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマンなど豪華キャストが集結した話題のラブストーリー。“旅と距離”をテーマに描く本作について、来日したカーウァイ監督に話を聞いた。(取材・文:編集部)
ウォン・カーウァイ監督インタビュー
「英語劇になったことで積極的な強い女性を表現できた」
■グラミー賞歌手ノラ・ジョーンズを起用した意図
――当初、ノラ・ジョーンズに映画音楽を依頼するはずが、本人と話しているうちに出演してほしいと思ったのが主演に抜擢したきっかけだそうですね。演技初挑戦のノラを起用したのはチャレンジだったように思えますが、彼女のどこに魅力を感じたのですか?
「私がノラに惹かれたのは彼女の声や容姿ではない。彼女がキュートな容姿だとは思わないしね(笑)。ノラが主役の映画を撮りたいと思った一番の理由は、彼女が自信に溢れ、飾らない性格だったからなんだ。それでいて彼女は女性から見ても魅力的だ。ノラ・ジョーンズとは、例えるならダイヤモンドの原石のような人だね」
――彼女に演技面ではどんなアドバイスを?
「ノラは15歳のときからステージに立って歌っているから、人前で演技することはすでに経験豊富だったんだ。だからノラから『演技のクラスに通った方がいいかしら?』と相談されたときも『まったくその必要はない』と答えたよ」
――映画のメインビジュアルにもなっているキスシーンがとても印象的でした。この映画においてのキスシーンはどんな役割を果たしているのですか?
「人と人の関係は“精神的な距離”だと思うんだ。たとえば、お互いに近くにいても心の距離は離れていたり、逆に遠く離れたところにいても心が通じ合っている人たちもいる。この映画は、そんな男女の恋と距離をテーマに描いている。そしてキスシーンはヒロイン、エリザベスの心の変化を表すシーンなんだ。2回あるキスシーンのうち、1回目は眠っているエリザベスにジェレミーがキスをする。あのときエリザベスはキスされたことに気づいてないと思ったかもしれないけど、彼女は本当は起きていたんだ。でもどう反応すればいいのか分からず戸惑ってしまい、目を開けることができなかった。それに対し、長い旅を終えての2回目のキスは、エリザベスは自信を持って“幸せをつかみたい!”と自らジェレミーの首に腕を回し、最初のキスへの“決断”を下すんだ」
■初挑戦の英語劇について
――今後もハリウッドで撮る予定はあるのですか?
「今回はたまたまノラを主役にした映画が撮りたいという創作意欲で撮ったんだ。ノラは英語しか喋れないし、歌手としての活動が忙しいため撮影に時間もかけられなかったから、アメリカ以外の場所で撮影するのが不可能ということで、必然的にアメリカで撮った英語劇になっただけ。だから今後もハリウッドで撮るか具体的なプランがあるわけではないんだ」
――初のハリウッド作品だが香港での製作プロセスと違いはありましたか?
「もちろん言語の違いや製作の仕方に違いはあったけど、アメリカで撮るからには私がハリウッドの流儀に合わせなければならなかった。でも逆に、組合などの制約に適応させていくというプロセスからも色んなことを学べたんだ。むしろ言語が違うということから、まったく新しい撮り方が生まれたと思う。この映画を見た多くの人から『これまでの作品よりストレートに物事を語っている』と言われたけど、確かにアメリカと中国の文化が違うってことは関係あるだろうね。中国語劇では控えめで率直な意見を言わないことが多いけど、これが英語になり、そしてノラのような強い女性の場合になると、積極的に自分の言いたいことを表現できるんだ」
――監督の作品には「旅」が描かれるものが他にもいくつかありますが、旅に特別な思いがあるのでしょうか?
「もともと私自身が旅好きなんだ。それに好奇心も旺盛だから、世の中の色んな出来事を知りたいという気持ちも強い。だから、話は聞いたことがあるけど行ったことはないという場所は、いつか絶対行きたいと思っているよ。映画の撮影を理由に行きたいところに行くということもあるね(笑)。今はロシアにすごく行きたいと思ってるんだ」