カムイ外伝 : インタビュー
白土三平の名作コミックを「血と骨」「クイール」の崔洋一監督が実写映画化した「カムイ外伝」は、原作の数あるエピソードの中でも人気が高い「スガルの島」の章を題材に、忍の組織を抜け出した忍者カムイが必死に生き抜く様を描くアクション時代劇。主人公カムイを体当たりで演じた松山ケンイチに話を聞いた。(文・構成:編集部)
松山ケンイチ インタビュー
「撮影を中断させたプレッシャーでギリギリの精神状態だった」
――原作は忍の世界に生きる者の悲壮感が描かれていますが、こういう重いテーマの作品に出演することに不安はありませんでしたか?
「原作は60~70年代前半の漫画で、まだ僕は生まれていませんが、その時代は主人公が何かと戦う作品が多い気がします。今の時代にはない作風なので、すごく興味がわきましたし、重い衝撃を受けたようなそれまでの自分の価値観にない物語に触れて、ぜひ参加したいと思いました。また、アクション映画は未経験だったのでぜひ挑戦してみたかったし、日本に生まれて俳優をやっているなら、時代劇は絶対やるべきだと思うんです。今後もやらせてもらえるなら何本でも挑戦したいですね」
――どのようなトレーニングで身軽な忍者の肉体を作っていったのですか?
「特にジムに通ったりはせず、アクショントレーニングで身体が出来上がっていったんです。ワイヤーアクション、忍者としての動作や殺陣(たて)などを、長い時間をかけて訓練させてもらいました」
――トレーニングにどれぐらいの期間をかけたのですか?
「最初にトレーニングを始めたのは『セクシーボイスアンドロボ』というドラマの撮影のときだったので、1年半ぐらいかけて鍛えました」
――忍者を扱った作品は多いですが、忍者といえば最初に何を連想しますか?
「子供の頃見ていた『忍者ハットリくん』もそうだし、ほかにも忍者を扱った作品は見てきましたが、漫画などで描かれるのは生身の人間が到底できないような離れ業をやる忍者なんですよね。もちろん今回も人間技じゃないと思うようなアクションシーンもありますが、この映画では生身のリアルな忍者を経験させてもらいました」
――撮影中、普通の人間ができないような技を演じるのは楽しかったですか?
「そういう技は自分ひとりの力でやってる訳ではないんです。ワイヤーやCGを使って表現しているので、感覚がしっくり来ないんですよね。例えば、『すごい高い木の上から飛び降りる自分』とか、なかなか想像できなくて難しいと思うこともありました」
――アクション以外で思い入れのあるシーンはありますか?
「この映画はアクションだけでなく人間ドラマもしっかりした作品で、でもそれはすごく悲しいドラマなんですよね。カムイが自分より先に抜忍になったスガルに向かって『俺は追忍ではなく抜忍だ』と説明するんですが、それでもスガルは疑っている。そこにカムイの不器用さと、忍の世界の厳しさを感じました」
――「忍者ハットリくん」のような可愛らしい忍者もいますが、実際は映画でも描かれているような暗い背景があります。そういう歴史についてリサーチしたことはありますか?
「差別や階級のことはいろいろ調べました。今は差別をされてきた人たちの方が強くなっている気もしますが、差別を受けてそういう生き方しかできなかったのかなと思います。(差別されても)生きるしかない、受け入れていくしかないのはすごく理不尽で、僕にはとても想像できない人生です。きっとこの映画を見たお客さんも何かを感じてもらえると思うし、僕自身、今こうやって普通に生活していることに複雑な思いを感じます」
――撮影を終えて、ここを見てもらいたいと思ったところはありますか?
「今まで芝居をやっていて挫折を感じることはなかったんですが、今回は『このキャラクターを演じるのは無理なんじゃないか』と挫折と恐怖を感じました。一度怪我をして撮影を中断させてしまい、もう二度と中断させてはいけないというプレッシャーで、ギリギリの精神状態で撮影していたんです。それがいいのか悪いのかは分からないけど、なろうと思ってそんな精神状態にはなれないので、自分がどう見えているのか楽しみですね」
――崔監督は厳しい監督として有名ですが、実際に仕事をしてみてどうでしたか?
「役者に対してではなくスタッフの方に厳しいという部分はあるかも知れないですが、それは自分の考えている映像を忠実に描くために絶対に妥協しないからなんです。そこが素晴らしいと思いました。監督の妥協しない姿勢に対して自分がどれだけ表現できるのか、準備の段階から意識するようにしていました」