おくりびとのレビュー・感想・評価
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あたたかい死とは
父親という偉大な存在を失ったとき、悲しみに暮れる間も無く、いろんな準備に追われていた私。病院から連絡を受け自動的にやって来る葬儀屋さんから基本的な葬儀に関する話を聞き、次々と淡々と行われる儀式にひたすら手一杯の状態で。
もし、こんな納棺士が身近に居てくれたのなら、父を送り出す時間だけでも心のままに悲しみを表現できて、父の門をもっとしっかり見届けられたのかもしれない、と感じました。
主人公が顔も分からなかった父親を次第に大粒の涙を流しながら送り出す姿、その後ろにしっかりと見守っている妻の姿、家族とは何かということを人の死を通して見つめ直すことができるとても良い映画だと思います。
そして、この重たいテーマのようでありながら、全体的に湿っぽくなく、ユーモアと温かさが溢れていて見ていて幸せな気分になりました。
賞とらなくてもよかったよ
すばらしいの一言
生き物は致死率100%。
普段忘れているそれを思い出させてくれる映画です。
身近な人が亡くなった経験をした人は多いでしょう。
この映画を見て、多くの人が泣いただろうけど、
それは安易な同情からというよりは、各々の人についてまわる
死の記憶を呼び起こすからではないだろうか、ということを
劇場で見たときつくづく思いました。
私がこの映画を見に行った日は年配の方が多く、
場内から聴こえるすすり泣きもまたとても多かったから。
私は冒頭のシーンで、
祖母のやすらかな突然の死と、祖父の長引いた疲弊した死を思い出し、
最初から泣きっぱなしでした。その後も何度泣いたか。
それは悲しいというよりは、その悲しみを包み込んでくれるような、
映画の音楽にもキャストにも筋書きにも現れている、
全体からかもし出される大きな優しさに打ちのめされての涙でした。
10年前なら単館上映で終わっていた映画ではないでしょうか。
死のテーマをすんなり世間が受け入れ、皆が深く考える、
そういう時代になったのですね。
もっくんの手さばき美し☆
脚本に脱帽
この作品の「発案者」たる本木雅弘の演技は、
テレビドラマの「徳川慶喜」や、映画の「スパイ・ゾルゲ」で、
その実力は感じていたのだけれど、
今回のシャシンでも、彼独特の、静かな中に滲み出るような、
ゆったりとした存在感を作りだしていました。
広末涼子の演技は、このシャシンで初めて観たのだけれど、
アイドルの域を脱して、自然な輝きを発し、
作品にふんわりとした暖かさを醸し出していました。
そして脇役陣の素晴らしさ。
山崎努、吉行和子、余貴美子、笹野高史・・・
中でも山崎努の存在が、作品構成上でも際立っていました。
彼の役柄設定と、彼の演技がなければ、
この作品が成立しなかったと言っても良いと思います。
そういう意味では、隠れた主役でしたね。
何よりも本木雅弘の「発案」を取材によって膨らませ、
脚本として完成させた小山薫堂は素晴らしい!
更に作品に奥行きを与えた音楽の久石譲。
彼は彼自身が監督した映画「カルテット」でも
チェロを多用していたのだけれど、
そのチェロの深い音色が、作品に奥行きを与えていたと思います。
山形の自然を美しく切り取ったカメラも良かった。
これらをタクトでまとめ上げた滝田洋二郎監督に拍手ですね。
映画というものが、
ほんとうに総合芸術だということを感じさせてくれる作品でした。
滝田監督アカデミー賞おめでとう!
先日「きらきらアフロ」を見ていたところ鶴瓶が大阪のピンク映画館でアカデミー賞滝田監督作品と「痴漢電車」のポスターに貼ってあったそうな。もっと笑えるかと思ったら意外に控えめな作品でした。笑いがもう少しあったほうが良かったし、後半いろんなことを詰め込みすぎた感が否めない。脚本の小山薫堂は、DIMEのレッド・データ・リストというコラムで私には、おなじみ。(絶滅しそうな物品を取り上げるコラム)彼は、見る視点が少し変わっているかもしれません。「お葬式」の例を引くまでも無く映画関係者が題材を嫌がったが、公開してみたら大好評の典型的な作品です。日本にやはり本当のプロデューサーがいない証拠だと感じました。今回は、本木雅弘の発案で始まり実質プロデューサーになったから実現した作品でしょう。頭が下がります。いつも映画を見ていない人を映画館に呼び込む企画を真剣に考えるプロデューサーがもっと必要です。映画会社(TV局も含め)のサラリーマン・プロデューサーしっかりしろ!
ひさびさに泣けた
エンバーミングとまでは行かないけど…
納棺という仕事があるっていうのを
この映画で知りました。
で、見ていてエンバーミングとまでは行かないけど
それっぽいなぁって…
死化粧や消毒をしてもらって
生前のような顔で見送ってもらう。
彼らの手に掛かったらきっと美しく死んでいける気がしました。
だから…あれだけ(汚らわしいとまで言って)嫌ってた彼の仕事振りを
見ることになった奥さんが理解を示すようになるんだものね。
でもさ…汚らわしいって言われても
奥さんのこと許しちゃうんだね。
あの一言は絶対に言っちゃいけない言葉だったんじゃないのかな?
妊娠したってことで無しになっちゃうの?
私だったら一生引きずりそうだわ。
あと…石文っていう素敵なやり取りが有ったってことも
この映画で知りました。
石のイメージで相手の感情を読み取る…
ポジティブな人とネガティブな人では全く違う内容になるって気もしますが…
しかし…笑えるところも多いし、泣かせる要素も盛りだくさんで
確かに素晴らしい(地味だけど)作品ではあると思うんだけど…
こういう映画をアメリカの人が本当に分かったのかな?と…
まぁ…賞取れて良かったです。
メリハリのきいたいい映画
メリハリのきいたいい映画だ。「納棺師」に対する世間の誹謗、偏見、軽蔑をまずは画面いっぱいにあふれさせた上で、それを感謝や尊敬や感動へと変質させてゆく過程を自然な形で描いている。そうした全てのうねりをかいくぐって来た人物を一方に置き、全てが初体験の人物をもう一方に据えることで、超越と相克の様相を対照的に浮かび上がらせている。
小道具や飛び道具もいい。硬い干し柿が笑いを誘う。石ぶみもいい味をだす。ドタバタも少々だと疲れない。「とめお」という「女性」も気になる(しかし、その名前の持つ朴訥な響きは、アカデミー賞の審査員たちには全く伝わらなかっただろうな)。
人の死を前にして初めて顕在化する親子関係の機微や人間模様を巧みに織り込んでもいるが、ただ、特別な深みを持った映画に仕立てようとの意図はないのだから、火葬の看守にわざわざ「ここは門です」とか「私は門番だ」とかとクサい台詞を言わせる必要はなかった。
深みのある作品
初めはコミカルな場面で笑わせ、次いで主人公が納棺師の仕事に悩み、葛藤する様を描いて一挙に引きつける。主人公が納棺師は天職だと振り切れたころ、妻との考えの相違により、妻が家を出て行くことになった時は、男として悲しかった。しかし妻が戻り、銭湯のおかみの死にあたり、妻の考えが変わりつつあることを、広末の表情で気付き、安堵の気持ちが生まれた。父の死の電報が届き、主人公は父への思いが爆発するが、直ぐに親子の絆に気づいて駆けつけるシーンや納棺師として父に接する様に涙を禁じ得なかった。この映画は、笑い、悲しみの他、仕事とは、死とは、親子とは、夫婦とは等今一度、観衆に訴え、考えさせる深みのある作品であると言って過言ではない。又、山形の自然が美しく撮られ、美的にも素晴らしい。
しっとり。
感想を文章化すると、もしかしたら作品の魅力を必然的に歪めて伝えることになるかもしれない。
文章として評価するなら、評価し易いポイントも沢山ある。
例えばオープニング。「泣ける」という評判を聞いて映画館に来たであろう、その観客に対し、冒頭にユーモアを持ってくる事で構えを解かせる。ここで構えが解けるからこそ、懐に入り込める。
そして実際、この冒頭の「ユーモア」は、その役割を果たしたあと、中盤まで進んでから改めて物語中の正しい場所に位置づけられる。ここにおいて飛び道具が飛び道具でなくなり、作品全体の世界にユーモラスであったシーンが違和感無く溶け込むのだ。
他にも文字にして褒めるなら、鶏肉であったり棺桶の値段であったり、小道具が後でしっかり活かされている。
シナリオのテンポも良い。
とか、そういう褒め言葉はいかにも理屈っぽい。そういうのは上手さであって、「おくりびと」が良くできてる理由にはなっても素晴らしい理由にはならない。
そして、その素晴らしさを伝えようとすると、いかんせん、「雰囲気がいい」とか、そういう余りに舌足らずな言葉に頼らなければならないのだ。
本作は死を扱ってはいるが、必ずしも「如何に死を扱うべきか」というような哲学を観客に問いかけない。
考えたければ考えれば良い。しかし、物悲しさを感じるだけで十分な人はそれでも良い。
本作が作り手の自家発電的なお芸術系作品ではなく、深みのあるテーマを扱いながら娯楽作品として誰もが嗜める。
そういう趣味の良さが希有なんだと思う。
しっとりした名作
アカデミー賞をとった、つまりアメリカ人に受けたということを知っての鑑賞だったので、どこが受けたのだろう的なことが頭から離れず、困りました。まあ、アメリカの風土とは全く違う、重く、冷たい空気の似合う日本ならではの内容です。このしっとりした空気感に共感してくれたのかなと思いました。葬儀のときに、亡くなった人を清めつつ納棺してくれる納棺師の成長の物語ですが、納棺をここまで儀式として美しくとらえ、嫌みも、後腐れも、どろどろした空気も排除した映像美は、見た後にさわやかな印象を与えます。ただし、美香(広末涼子)が、あれだけ不自然なほど、妻として夫の納棺師という職業を受け入れられなかったのに、実際の夫の仕事ぶりを目にすることで、突然夫を受け入れてしまうことが若干唐突な気がした。生理的嫌悪があんなに簡単にひっくり返ることは、もっと時間をかけない限りあり得ないと思った。
それ以外は、素晴らしい、です。
音楽とストーリー背景が見事に融合
いのち芽吹く
元喫茶店の実家の落ち着いた雰囲気の内装が,
チェロのテーマ曲が,
美香の理解と,
絆の継承のラストシーンが好き。
威厳と優しさを全身から醸し出す佐々木と,門番が良かった。
夫への愛情がたしかに見える美香も良い。
主人公の小林大悟が,真摯で穏やかな人柄で好印象。
本木雅弘がハマり役。
顔立ちが中性的だから嫌らしくなかった。
「死」にまつわる偏見と,事務的な葬儀の形を,
声高に追求せず,さらりと取り込んで,
クスっと笑いと爆笑を織り交ぜながら,
厳かで崇高な「納棺師」の仕事を通して,
人生に自問自答を続ける大悟の成長を,
シンプルに描いた脚本が秀逸。
生きるを見つめる前向きな物語でした。
ひとつだけ注文を付けるなら,
エンディングバックは父親にしてほしかった。。
映画のように親も自分も
愛国心的なものを持ち合せていない私ですが
「日本に生まれてよかった」と思わせてくれる映画です。
大切な人を失い送りだすその時、目の前で
物のように棺に入れられたら死んでしまった悲しみが
溢れ出すだけでなにも残りません…。
でも、故人に生前同様の敬意はらい「身支度」を
してくれる姿を見ているだけで故人に対しての感謝を感じ、
悲しいけど優しい気持ちでいられるような気がします。
どう表現していいのかわかりませんが「日本人」であることが
誇らしい気持ちにもなります。
いつか、そんな日がくるのなら親もそんなふうにしてあげたいな
とただ純粋に思えるそんな映画です。
※内容もただ、悲しいだけじゃなくコミカルで笑えるので
暗そうとかジミとか思わず見に行ってみてください。
よかったです。感動しました。
遅ればせながら・・・
昨年公開直後に観ました。去年観た映画の中で私にとってベストといえる作品でしたが評判もよく、多くの方のレビューを読んでいると私の言いたいことがうまく表現されていてここに私が書く必要もないなぁ~と思っていました。
しかし今日ある映画を観てがっかりし、比べてみるとあらためてこの映画の素晴らしさを認識したので遅ればせながらですがここに書いてみようかと思いました。
映画は音と映像と内容が一体となる媒体です。テレビやDVDもそうですが映画は画面と音が大きくその利点も生かさなくてはならないと思います。この映画はそのすべてが揃っていました。
音楽、風景、そして所作すべてが美しく、人の思いが温かい。
しかし人間には5感があります。
耳と目だけではない肌に感じる湿度や匂いそれをこの映画では感じることが出来たと思っています。
これはどんな映画でも感じることが出来るわけではないし、時に有り得ない質感の映画があります。
しかしこの映画は大袈裟でなくとても自然に日本を感じることが出来ると思いました。
映画は勿論内容が大切ではありますが、それだけでは絶対にないと
思えるそんな映画だと思います。
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