「間違いなくベストワンの作品であり、笑って泣ける大傑作です。」おくりびと 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
間違いなくベストワンの作品であり、笑って泣ける大傑作です。
この作品で“納棺師”という仕事を初めて知りました。死者を納棺と前に、一定の所作でうやうやしく、表情を整え、体を拭き、死に化粧をして、棺に納める仕事です。このときお亡くなりになった人の尊厳のために、衣装の着せ替えは参列者に一切肌を晒さず、手際よく脱がせ、死に装束に付け替えるのです。
主演の元木がまるでお茶の作法のようだったと答えていたように、その所作は美しく、厳かで、故人を弔ふことがこんなにも感動を呼ぶものかと、改めて気づかせてくれました。実は2年前の6月に母の葬儀を体験しました。そのときにも納棺の儀式はあったはずなのですが、記憶の隅に追いやっていたようです。
でも、納棺師の仕事がどんなに大切か。この作品で思い知らせされました。なかには葬儀屋が適当に遺体を棺桶に放り込む時もあるようで、そのシーンを見たときなるほど儀式として納棺の儀があった方が、遺族としても心のけじめができるし、悲しみも和らぐものだなぁとつくづく思い知らされましたね。まさに人生最高の旅立ちのお手伝いといえます。
ところが、普段の日常生活を送っている市中の人は、他人の葬儀に関わることを忌み嫌います。葬儀場や墓場の建設は反対され、葬儀屋は忌み嫌われます。この作品の主人公大悟の幼なじみからは、絶交され、さらに妻美香もまた、夫が相談もなく納棺師に就職したことに腹を立てて、実家に帰ってしまいます。
葬儀場建設反対の立て札を見るたびに、ろくに神仏を信じていない人がと疑問に思う小地蔵ではあります。みなさんあまりにやがては誰でも死んでしまうという避けがたい現実を避けて忘れてしまっているのではないのかなぁ~。
いくら避けていても肉親や親しい人が亡くなったら、話は別。死と向き合わざるを得ません。そこで見かける納棺師としての大悟の振る舞いを見て、蔑視していた美香や幼なじみたちも、感動するのでした。
初めて大悟の仕事ぶりをまざまざと見つめるときの広末と元木の無言の演技が凄く良かったです。直前まで納棺師の仕事の件で大喧嘩している仲だったのに、アイコンタクト一発で、美香が大悟の仕事を受け入れたことを、観客にも納得させるすばらしい表情でした。
無言の表情だけで場面を語らせている点では、滝田洋二郎監督の演出は凄いし、元木・広末・山崎努らの阿吽の呼吸による息のあった演技に惹き付けられましたね。
あと主人公がプロのチェリストだったという設定のため、ガチンコで元木はチェロの演奏を練習し吹き替えなしでやり遂げています。その腕前は、全くの素人だったのが近日中には、ライブ演奏しようかというところまで上達したそうです。
その主人公の心そのままに、時に激しく、時にやさしく、チェロの音色で織りなす感動的な音楽を手がけるのは、名匠・久石譲。日本の代表的なチェロ奏者20名で編成した楽団による音楽も素晴らしかったです。
また、物語の舞台は山形県庄内平野。名峰・月山を背景に、美しい自然を四季の移ろいとともに叙情的に描き出していました。
一見地味で触れ難いイメージの職業をテーマしていますけれど、その重さを打ち消すぐらいユーモアにあふれた作品でもありました。
例えば、大悟の初仕事は、死後2週間も経った腐乱死体。その悶絶する姿に大笑い。ついでに、追い打ちで家に戻ってたらで、夕食は鳥鍋。鳥の生首見て吐きそうになる大悟に同情しつつ笑ってしまいました。そんなときって、理性が麻痺しているから、妻にいきなり欲情してしまうものでしょうか?(見てのお楽しみ)
その他、沢山のキスマークで送り出される大往生のおじいちゃんだとか、美人だと思ったら、拭いているうちにあれと当たり、なんとニューハーフだったなどなど、全編滑稽さに満ち溢れています。決して退屈させません。
納棺師と主人公夫婦・親子のつながりのなかから、愛すること生きることを考えずにはいられなくなりました。人は誰でもいつか、おくりびと、そしておくられびととなります。この普遍的なテーマは、今生きている私たちに、夫や妻そして、わが子や父や母にどう向き合うか問うてくるでしょう。きっと、そばにいてくれるだけでもありがたいなっていう気持ちにならざるを得なくなりますよ。
好き嫌いはあっても、食わず嫌いはいけません。この作品をとにかく見ていただければ、笑いと涙、そして大きな感動が得られることを小地蔵は保証しますよ。
特に近年肉親の葬儀を経験した人なら、そのときの忘れようと努めていた葬儀の記憶が故人の思い出とともに、まざまざと鮮やかに蘇ってきて、泣けてきます。
まぁ、それは悲しいけど、それもまた悪くないと思いますよ。
追伸
2ヶ月ぶりでまた試写を見てきました。
またまた感激し、たっぷりと涙流してきました。
山崎努さんを初めベテラン俳優陣が、いつも以上の演技をしていることに気がつきました。しかも、軽妙で笑えます。
肩がこりません。
この満足感、高揚感は、『ダークナイト』試写会を見終わったあとの感じに近いものがあります。
今年に入ってすでに150本以上の作品を見た中で、間違いなくベストワンの作品であるとお勧めします。