ハッピーフライト : インタビュー
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矢口史靖監督 インタビュー
――今回はANAの全面協力で本物のジャンボジェット機などを使用してますが、監督の中で、航空会社の協力というのは前提としてあったのでしょうか?
「ちょっとしたトラブルが起こる話なので、構想していたことをやろうと思ったら、架空の航空会社じゃないとできないかなと思ってました。ダメ元でANAさんに相談したんです。“いろんな部署のキャラクターが出てきて、最初はへっぽこですが、トラブルをきっかけにしてバラバラの歯車がかみ合うようにプロフェッショナリズムを発揮して問題に対処する。最後はかっこよく、ハッピーに”と主旨を説明したら、『面白いから一緒にやりましょう』と快い返事をもらえて、これはスゴイことになるなと」
――具体的にANA側から直されたところはありますか?
「ちょっとした言葉遣い程度です。直接お客さんと話すときは『お客さん』と言うことは絶対になく、必ず『お客様』だと。ただ、お客さんの目の前でなければ、『あのおじさん』とかは言っても大丈夫とか。そういうプロ意識があるかないかが見えるところでは、意見がありましたが、それ以外は特にありませんでした」
――本物を使った撮影だからこそ大変だったところは?
「狭い。そして、窓が開かないので換気ができない。さらに、照明機材のせいでどんどん暑くなって、酸素が薄くなる。ただ、みんな蒼い顔で汗をダラダラかいているので、パニックのシーンはうまくいきましたが(笑)。それ以外の優雅なシーンでは、しょっちゅう汗を拭いてあげたりとか、『もっと楽しそうに』と雰囲気を盛り上げるのは大変でした。ただ、それでもやったかいはありました。どこからどう見ても本物にしか見えないですから。セットだと壁を取り外したりも出来ちゃうんですが、そういうことが一切なく、リアリティが出せたと思います」
――キャストの方々が苦労されていたことは?
「トイレが遠いということですかね。飛行機のエアコンとかスイッチ類を入れるといろんな音がしだして(台詞の)同時録音ができなくなるので、全部切ってましたから、飛行機の中の施設がトイレも含めて使えない。しかも、機内の狭い通路にはカメラや機材が陣取っている。たぶん、(トイレに行きたくても)言い出せない人はたくさんいたと思います(笑)。また、お借りしたジャンボ機は格納庫に駐機して使ったのですが、格納庫内では僕も含めてスタッフはヘルメットを被らなきゃいけない。飛行機の中は脱いでもいいんですけど、降りるとまた被らなきゃいけないから、面倒くさくて被りっぱなし。工事現場みたいでした」
――キャストの中で特に印象的な方はいますか?
「田辺さんと綾瀬さんですね。面接する前は『どんな感じの人かな』くらいの期待値だったんですが、会ったらとにかく面白くて可笑しい。鈴木役(副操縦士=田辺誠一)と斉藤役(CA=綾瀬はるか)は決定するまでものすごく多くの人に会い、台詞を読んでもらったりしていたんですが、なかなか見つかりませんでした。でも、田辺さんと綾瀬さんに会った時は、即決定でした」
――2人の意外なコメディセンスが見えていましたね。
「実は普段からあんな感じなんです。でも、誰もその魅力を映像に残していなかったのですね」
――映画を完成させて、いまあらためて思うことは?
「飛行機に乗りたくてたまらなくなりました(笑)」
――いつもユニークな題材を映画化されてますが、「これは映画になりそう」とピンとくるんですか?
「ピンとくるんですけど、取材したり調べているうちに、最初の勘がはずれることはよくあります。もっと面白いと思ったのに……とか、逆にこんなに面白かったの……っていうのもありますし。そんなに勘は冴えてませんね(笑)」