「仕掛ける詐欺が陳腐すぎやしませんか?」映画 クロサギ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
仕掛ける詐欺が陳腐すぎやしませんか?
宣伝文句とは裏腹に、仕掛ける詐欺のスケールがチープすぎます。かつて日本経済を暗黒の15年に落とし込んだ伝説のシロサギグループが手がける今回のヤマとしては、総額5億円程度。しかも主人公黒崎と直接やり合うのは、パソコン数十台の取り込み詐欺。現代の知能犯の犯罪のリアルティを標榜する同シリーズとしては余りに古典過ぎる詐欺の現場しか見せていません。
また黒崎が動き出すとき、予定調和のごとく、手口が安直に完成されているのです。例えば突如として詐欺の舞台となるIT企業ができあがり、多数の従業員を使う経営者に即席で収まっていたり、はたまたちゃんとした事務機会社の営業マンに、速攻でなりすましたりするのです。詐欺映画では、やはり準備段階でのリアルティがなかったら嘘くさくなります。駄作のオーシャンズシリーズでも、盗みに入る段取りはきっちり見せます。
哀川が演じる知能犯係の刑事神志名だって、捜査ほ全然していないのに、黒崎や石垣の動きを神の如く読み取っているのです。
またターゲットの石垣の黒幕はオセロを指南した相手としか描かれず、いきなり最後に登場して、唐突な感じがしました。
さらに、黒崎の究極の敵である御木本に至っては、ワンカット画面に出てくるだけで、絡みなしなんですね。
そんなわけで、この作品の脚本レベルがテレビドラマ級で、大金を投入する映画製作のスケールに馴染み切れていないことが問題だと思います。普段ケチケチな設定で書くことに慣らされている人が、いきなりお金を使っててもいいよと言われても、イメージできないのだろうと思います。山下智久さえ大写しにしていれば、客が呼べると安直に考えているのかなと決めつけたくもなりますよ。
それでも『クロサギ』の世界観はきわめて魅力的です。もし力のある脚本家(チーム)に十分な時間と報酬を与えれば、いくらでも面白い話を思いつくはずです。潤沢な予算があるのなら、もっと力量のある脚本家を起用すべきだったと思いますね。
ただ、石垣を演じた竹中直人は当たり役で、こんなに詐欺師を胡散臭く、もっともらしく演じられる人は他にいないなと思いました。
変装シーンでは、テレビ朝日の「特命係長 只野仁」シリーズを彷彿させるものがありましたね。その辺を器用に演じ分けられるのですから、皆さんがバッシングしているほど山下は演技力ないとは思いませんよ。
さらに、冒頭の杉田かおるが演じる車泥棒の女詐欺師を食めるシーンは、ノリもよく面白かったです。