アウェイ・フロム・ハー 君を想うのレビュー・感想・評価
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「悪い人生じゃなかったと思うのはいつだって男性よ」
カナダの豊かな自然に囲まれたログハウスで40年以上、仲睦まじく連れ添ってきたアンダーソン夫妻。ある日、妻のフィオーナにアルツハイマーの兆候が現れはじめる。
何とも切ない大人のラブストーリー。
「私の中のあなた」という作品でも感じたが、好き・嫌いや良い・悪いといった価値観は相対的なものでしかない。それを超えた絶対的なものを西欧ではたぶん「愛」と名付けていて、この作品はそういった意味での「愛」について描かれている。
痴呆に蝕まれていくフィオーナ役のジュリー・クリスティが呟く、「悪い人生じゃなかったと思うのはいつだって男性よ」という科白に象徴される、女性監督ならではの感性をがっちりと受け止め、とてつもなく美しくキュートな演技を見せる。
夫役のゴードン・ピンセントの慈しみ・嫉妬・罪悪などがない交ぜになった寡黙な演技に、40年にわたって積み重ねてきた夫婦の絆の重みと責任が巧みに表現されている。
しかし切ない。
いかに大切に想っているとはいえ、人生の先も見えているとはいえ、ラストの様な選択を緩やかに決断できるだろうか。愛のためにAway From Herできるだろうか。
大事な人を想う時間
認知症というものに対した時、人は何をもってその相手を想うことができるのかを考えさせられる作品でした。この映画を観ながら、多くの人が自分にとって大切な人を想うことだろうと思います。そうした時間をそっと差し出してくれるような作品です。
ただ、主題だけで、本当にその映画に引き込まれるかと言えば、そうとは言い切れないという感じもしましたので、これぐらいの評価にしました。
サラ・ポーリーの作品をこれで2作品観たわけですが、印象としてはもう少し工夫が必要なのかもしれないと感じ始めているところがありますね。ちょっと主題に頼ろうとしている感じがあるかな、と。どうしたら良いかとか専門的なところは分からないのですけど、ラストシーンなど、ジュリー・クリスティーの存在がもっとこちらの胸を突くようであったら、よりこの作品に引き込まれたような気がします。
でも、新作も観てみようとは思っていますよ。
認知症の家族を持ったらどうすべきなのか、考えさせられる作品
<ストーリー>
グラントの妻、フィオーナは軽い認知症が進み始めていた。まだ老人介護施設に入るほどではないと、グラントは彼女の入所を迷うが、フィオーナは自身で入所を決断する。
入所から1ヶ月は面会が禁じられているため、1ヶ月後ようやく施設を訪れたグラントは、入所男性に寄り添う妻を見つける。万感の思いで彼女に話しかけるのだが・・・
<個人的戯言>
【♪レ~ジ~メ~♪】
認知症という重いテーマに、
当事者家族が
どう行動し、
選択しなければならないか、
いろいろ考えさせられる作品です。
状況を受け入れられず、
戸惑いながら
見守り続ける夫の目が、
常に憂いに満ちています。
妻役のジュリー・クリスティも素晴らしい。
記憶の断片が交錯する役を、
変に激情的に演じるのではなく、
何か自身でも理解しえない混乱を抱えていることだけはわかっている様子が、
実に繊細でリアル。
ラストのグラントの選択は、
やや性急な決断にも思えますが、
そこで訪れる唐突な展開は、
やはりこの病の一端を表しているのでしょう。
【ぐだぐだ独り言詳細】
まだ比較的軽度の状態での入所という決断は、果たして正しいのか。
もちろんケース・バイ・ケースだと思われますが、非常に難しい問題です。
次第に進行し、
家庭生活そのものが崩壊してしまう可能性がある一方で、
社会や家庭生活から隔離されることによって、症状が進むことも考えられ、
そのことによってやはり周りの家族も精神的に追い込まれていきます。
最初から妻の入所に戸惑いを見せていた夫は、
入所後初めての面会での妻の様子に大きなショックを受けます。
夫役の俳優は
「シッピング・ニュース」や
「ナッシング」(ヴィンチェンゾ・ナタリ監督作品)
に出ていたそうですが、全く記憶していません。
しかし激しい感情表現はありませんが、
映画の冒頭から、
悲しげな目で
ずっと妻を見つめる演技が、
何とも物憂げで、
彼の妻への思いが伝わるとともに、
事の成り行きに戸惑い、
悩み、
自分を責める夫を、
静かに体現しています。
しかし何といっても素晴らしいのは妻役のジュリー・クリスティ!
自分の運命を受け入れようとする冒頭から、
目の前の記憶だけに生き、
やがて「見知らぬ人」になってしまった夫とのやり取りの中で、
混乱し
少しずつ壊れていく様を、
実に静かに、
しかし確実に演じています。
ラストの夫の選択は、
妻を想う気持ちと、
一方で自身の心の拠り所という面を考慮しても、
もう少し「身守り続ける」時間があってもよかったと思いますが、
そこで訪れる突然の展開こそが、
この病の真実の一端を表していて、
それをクローズ・アップするのには効果的でした。
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