パリ、恋人たちの2日間 : 映画評論・批評
2008年5月13日更新
2008年5月24日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
皮肉屋デルピーがフランス人気質にもの申す、痛快な会話劇
ニューヨーク在住の倦怠期のカップルがベネチアへのバカンスの帰りに、女の実家のあるパリに寄る。物語はただそれだけだ。だが、「ビフォア・サンセット」でアカデミー脚本賞にノミネートされたジュリー・デルピーは、男と女の会話の端々に米仏カルチャーの違いをおもしろおかしく、刺激的な毒とともに注入している。マルシェ(市場)でアメリカ男が見るのは動物の死体だが、フランス男(女の父)からすればそのウサギも美味しい煮込み料理の食材になる。フランス女は「オーラルセックスなんて大したことない」と言うと、アメリカ男はコンドームが小さすぎると文句を言う。
そうした文化比較論的ストーリーテリングは「アニー・ホール」にも近い。限られた時間のなかで大都市を彷徨するという意味では「アフター・アワーズ」にも近い。
大きな映画ではないが、すこぶるテンポのいい会話、“フランス人らしさ”への痛烈な皮肉は、女優デルピーを頭の回転のいい女性に見せている。特に、セックスに関する会話ではスクリューボールコメディ風さながらだ。恋人役に実生活の前恋人ゴールドバーグを持ってきた危険な賭けは、その距離感が濃密かつ絶妙に保たれ成功しいる。そして何より、パリという都会の雑踏のノイズが心地よいBGMのように聞こえて、2人の恋愛ゲームをいっそうヒートアップさせる趣向がたまらない。
(サトウムツオ)