潜水服は蝶の夢を見る : 映画評論・批評
2008年1月22日更新
2008年2月9日よりシネマライズ、シネカノン有楽町2丁目ほかにてロードショー
詩情溢れるジュリアン・シュナーベルの最高傑作
邦題のポエティックな響きにすべてが象徴されているこの作品は、ジュリアン・シュナーベルの最高傑作。脳梗塞で倒れた有名ファッション誌編集長が、唯一動く左目の瞬きだけで綴った自伝というと、重苦しい闘病記を想像しがち。だが、そこは画家でもあるシュナーベル。全身麻痺の主人公の狭い視界に映し出される病室にすら詩情が溢れている。そのカメラワークも斬新で効果的。フレームアウト連発の主観ショットで主人公の不自由さと苛立ちをときにユーモアを交えて体感させる前半が、客観ショットに切り替わる後半は彼の世界の広がりも体感させる。たとえカラダが潜水装置に閉じこめられたようでも、自分と向き合うことで主人公の想像力が蝶のように自由に羽ばたきだすと、観ているこちらの心まで解き放たれるようなのだから。
病に倒れても人間臭いままで、これまでの人生への罪悪感を自虐的に独白する主人公(マチュー・アマルリックが素晴らしい!)が憎めないのも、人間へのシュナーベルの愛が全編に感じられるから。死に直面して初めて気づく生の重みに、自分のカラダが自由に動くうちにリアルに、それもポエティックに向き合わせてくれたシュナーベルに感謝。
(杉谷伸子)