「たまたま被害者になったといえども、彼は本当は最初から最後まで犯罪者」ヒトラーの贋札 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
たまたま被害者になったといえども、彼は本当は最初から最後まで犯罪者
総合:65点
ストーリー: 65
キャスト: 70
演出: 75
ビジュアル: 70
音楽: 65
ナチによるユダヤ人虐殺は映画でも何度も取り上げられた主題だが、今回はナチが一方的な悪役とはならない。ユダヤ人たちは自分の命と引き換えにナチの偽札作りに協力するかどうかという選択を迫られるからである。
精巧な偽札を大量に流通させることは、国家の信用を失墜させ経済を破壊する重犯罪である。隣で他のユダヤ人たちが殺されているぎりぎりの状況で、自分人たちの利益をとるか命を賭けて抵抗するかというジレンマに陥る。主人公は自らの命や仲間たちのために綱渡り的な生活を耐えていく。
面白いのは敗戦濃厚なドイツで、収容所がユダヤ人の反乱によって解放されたときの場面。好待遇を得て身体的には健康な偽札作りのメンバーたちと比較して、反乱をした普通の待遇のユダヤ人たちは見るからにやせ細っていて貧相で汚くて、一目で収容所に入れられていたことがわかる。だから反乱したユダヤ人が彼らを見ても、ナチのドイツ兵がユダヤ人の服を着て変装し逃げようとしているとしか思えず彼らを銃撃しようとするのである。
しかしそもそも主人公はナチに捕まる前から犯罪者であった。そして最後にカジノで本物とイングランド銀行に認められた偽金を使い簡単にすってしまうなど、くだらない行動をとる。もうナチに協力しなくても命の心配はないのに、いかに戦争が終わった後とはいえ自ら偽札を流通させるという重犯罪をすすんでやってしまう。
たまたま不幸な時期に不幸な場所にいたユダヤ人だったために不幸な経験をしてしまった被害者になったが、結局彼の本質は、たとえナチに捕まっていなくてもただの犯罪者にすぎないのだとわかりました。解放されるまでのあの収容所の中の命のやり取りをする生活やジレンマの中の決断は一体何だったのだろうか。そんなわけで途中までは良かったのに、最後はあまり納得ができませんでした。