「宗教や倫理観をからめない家族の話」JUNO ジュノ Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
宗教や倫理観をからめない家族の話
興味本位の初体験で妊娠してしまったジュノだが、いたってノリが軽い。親に内緒でこっそり中絶しようとするが、赤ちゃんにはもう爪がはえていることを知ると産む決心をする。それでも高校生の自分には育てられないから、さっさと子供を欲しがっているセレブ夫婦に里子に出すことにする。「デリバリーのピザみたいに(赤ちゃんを)届ける」とか、超音波写真を見ると「シー・モンキーみたい」とか、心配事といえば「いつジーンズのウエストにゴムをつけたらいいか」ということだけ。いかにも現代っ子らしい言動だが、ジュノには彼女なりの善悪の認識や責任感をちゃんと持っている。本作がとても温かいのは、ジュノが前向きだからだけでなく、周囲の“大人”たちの反応が温かいことだ。両親は彼女の意見を尊重し、責めることなく応援するし、多少の好奇の目にさらされるが、大きなお腹を抱えて学校にだって普通に通っている(日本だとまずこれは考えられない。親が味方になってくれたとしても、教師やPTAが許さないはずだ)。これらと多少なりとも違った反応を見せるのがキーパーソンとなる里親候補の夫婦。お金持ちで洗練された美男美女のカップル。当初ジュノの目には完璧に見えた2人、しかし神経質な妻はジュノには少し窮屈に見える。反対に高校生の自分と話の合う夫は理想の男性だ。だが中盤を過ぎると、この2人に対する認識が逆転することが最大のポイントだ。話の合う夫は、単に大人になりきれない無責任な「夢見る夢男くん」だっただけ。本当は子供など欲しくはないし、妻のこともジュノのことも理解していなかった。反対に神経質な妻は、子育てに大きな不安を抱えているだけで心から子供が欲しいと思っている。彼女がジュノのお腹に触るシーンはジュノだけでなく、世の中の女性なら絶対グっときてしまうはずだ。子供を産むということ、そして育てるということは親としての責任を担うということ。しかし親になるよりも前に、夫婦として互いを理解するということの大切さを本作は教えてくれる。子供は産んだけれど、ジュノは「親」ではない。しかしこの経験が彼女を少し大人にした。妊娠が先という逆バージョンの恋を始めたばかりのジュノと、新米ママにエールをおくるポップな青春映画の良作。