ジェシー・ジェームズの暗殺 : 映画評論・批評
2007年12月25日更新
2008年1月12日より丸の内プラゼールほかにてロードショー
灰色の大平原を背景に灰色の登場人物が煮詰められていく
ウォルター・ヒル監督の「ロング・ライダーズ」(80)の最後は、ロバート・フォードがジェシー・ジェームズを撃つ場面だった。フォード弟に扮したニコラス・ゲスト(兄のクリストファーがチャーリー・フォードを演じた)が「アイ・ショット・ジェシー・ジェームズ」と叫びながら引金を絞る場面は、妙な強引さが記憶に残る。
「ジェシー・ジェームズの暗殺」も、この場面を物語のクライマックスに用意している。ただ、ケイシー・アフレックの演じるロバート・フォードは叫ばない。映画全体も、「ロング・ライダーズ」が省略した「ジェシー・ジェームズの翳りを帯びた晩年」を丹念に描き出す。
ロバートはジェシー(ブラッド・ピット)の崇拝者だった。「おまえは俺のようになりたいのか。それとも“俺”になりたいのか」と問われてうつむき、憧憬と執着を抱えたまま、失望と憎悪をつのらせていく。1880年代初め。エジソンが蓄音機を発明し、ビリー・ザ・キッドが殺され、ドストエフスキーが「カラマーゾフの兄弟」を発表した時代だ。
監督のアンドリュー・ドミニクは、広大で寂寞とした大平原を背景に、両者の心理ドラマを煮詰めていく。急所はここだ。彼は、英雄と凡人、崇拝と憎悪という概念を対立させず、ジェシーの迷いとロバートの狂いを重層的に描き出す。「天国の日々」を思わせる映像だが、奥には「許されざる者」の灰色が潜む。灰色の大平原で、灰色の登場人物が不思議なパントマイムを演じている。
(芝山幹郎)