「荒野で感じた温もり。」イントゥ・ザ・ワイルド ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
荒野で感じた温もり。
どうしてこの話をS・ペン氏が映画化したのかを考えた。
確かに素晴らしい出来ではあるけれど、非常に地味。
ハリウッドが賛美しそうな映画とは一線を画した感じ。
実話を売りにしてはいるが、普通の一青年の話である。
鑑賞中におのずと答えが見えてきた。
これは昔の彼そのものというか、とても重なって見える。
彼が若いころにハリウッドから問題児扱いされた時の、
あのムチャクチャやったるで!的な暴走意識が窺える。
金持ち裕福青年という筋書きもおんなじ。
だからどことなく廃れておらず(爆)人間的にも綺麗だ^^;
そして何より感じたのは、自分が歳をとったこと…。
悲しいことに人間は歳をとると色々なことが見えてくる。
ここに登場する、青年が出逢い別れていく大人たちが、
みんな過去に同じことを考え、背負い、立ち向かい、
乗り越えてきた過ち(と言いたくはないけれど?)を
この青年に見ていることが、どう見ても明らかなのだ。
そして私も彼らと同じように、この主人公を見ている。
彼が考える未来。今持ち合わせている社会への絶望。
荒野へ行ったからって消化できるものではないけれど、
彼がひとり旅に出たこと自体は有意義だったと思える。
ホント、人間的に真面目でとってもいい子なのだ。
だから、一体なにが彼をこの旅に向かわせる原因に
なったのかが、最初はぜんぜん見えてこなかった。
金持ち坊ちゃまの我儘か?世間知らずの悪あがきか?
…原因は、両親の不和だった。
でもねー。(ふと中年意識が出る)
ここで描かれた夫婦の不和なんて、どの家にもあるぞ。
(ちょっと特殊な家族形態ではあったけど)
こう言っちゃなんだけど、やっぱりこの子は繊細だな。
良い子をひたすら演じ、機会を窺っていたわけだから…。
そんな彼が旅に出て、様々な触れ合いを通じて学ぶ。
息子を見失った両親は、心ひとつにして息子を待つ。
結果が幸いならばこの家族は、のちにまた再会を果たし、
ひと回りもふた回りも大きくなった息子に歓喜するはず。
もちろん、そうあって欲しかったのだが。。
自然界(しかも荒野)をナメるな。ってこういうことだ。
悪ガキを卒業し、家族を作り、映画人として社会に
貢献するようになった今のペン氏が、いちばん興味を
持つであろうテーマだと、やっぱり思える作品だった。
青年を見守ろうとする視線の先に
父なるペン氏の眼差しが感じられる描き方が素晴らしい。
E・ハーシュの演技力に万歳。
(社会の荒波だって荒野だよ。ナメてかかると危険だよ。)