アリス・イン・ワンダーランド : インタビュー
世界中のアーティストたちに影響を与え続ける「不思議の国のアリス」を、独特の世界観で映画ファンを魅了し続けるバートン監督が映画化。風変わりなキャラクターたちがところ狭しと行き交う本作について、個性派として知られるバートン監督を直撃。デップとのコラボレーションや作品に込めた思いを聞いた。(取材・文:編集部)
ティム・バートン監督 インタビュー
「監督としては、どの役にも共感できるのが大切」
――原作ではワンポイントリリーフ的なマッドハッター(帽子屋)が、アリスを導く重要なキャラクターになったのは? また、最初からジョニー・デップが演じることを想定していた?
「もともとマッドハッターはジョニーに演じてほしいと思っていた。これまでも『不思議の国のアリス』はいろいろな形で描かれてきたけど、マッドハッターはちょっとおかしな、奇妙なキャラクターとして描かれているだけだった。今回はこの役にもっと奥行きを、人間味を与えたかったんだ。多重人格的なところや、怒りや悲しみ、喜びといったものをね」
――ジョニー・デップとはこれで7度目の仕事です。どのようにして彼と組む作品を決めているのでしょうか? 彼のために役を作ったりすることは?
「まず大切にしているのは、ジョニーに合った役であるかどうかということ。僕は、彼が友人だから起用するということはないし、ジョニーに合った役でなければ起用しない。彼も自分に合うと思わなければ引き受けないと思うよ。長く一緒に仕事をしていく上で、お互いの芸術的な感覚を保つためには、そうした意識をもっていることが大切なんだ」
――個性的なキャラクターがたくさん登場しますが、もっとも共感するのは?
「選ぶのは難しいね(笑)。監督というのは、どの役にも共感し、気持ちを感じ取ることができるのが大切だと思ってる。たとえばアリスには、成長していく過程で自分は社会に適応していないのではないかと感じたり、現実の世界で直面している問題に対して空想の世界をうまく使うというところに共感できる。マッドハッターのちょっとイカれたところ、多重人格なところもね。赤の女王が抱えている怒りに通じるところもある」
――「お前はまともじゃない。でも、偉大な人はみんなそうだ」というセリフにこめた思いは?
「あのセリフは僕自身にとっても重要なものだった。僕自身、子どものころから君はおかしいと言われても、自分ではまったくおかしいとは思っていないということがあった。だから、僕はちょっとおかしい人、変だと言われる人こそ、もっとも共感しやすかったりするんだ。あのセリフには、そういった意味を込めた」
――アリスの19歳という設定にはなにか思い入れがあるのでしょうか?
「若すぎず、年をとりすぎていない、それでいて自分自身がまだ何者か見出せない年ごろというのを見ていくと、僕自身、19歳くらいが一番難しい時期だった。だから、アリスが自分自身を見出すためにワンダーランドに戻る時期として、ちょうどいいのではないかなと思った」
――赤の女王が悪役なのにキュートで魅力的ですが、あのキャラクターには演じているヘレナ・ボナム・カーター自身が投影されているのでしょか?
「それはなかなか言いにくいところがあるよね(笑)。僕自身、映画に登場する悪役が好きなんだ。悪役には必ずどこか好きになってしまう要素がある。悪役というのは楽しい役でもあると思うんだ。特に今回のワンダーランドでは、悪役にもどこか善の部分が、白の女王のように善人なんだけどどこかおかしなところがあったりする。その奇妙な混ざり具合が、まさにワンダーランドでもあると思うんだ」