「監督がなにを描いて、なにを省略していいかよく分かっている映画」ミルク antさんの映画レビュー(感想・評価)
監督がなにを描いて、なにを省略していいかよく分かっている映画
メジャー作品ではないがガス・ヴァン・サントが久しぶりに一流スタッフと作った映画。ゲイの政治家の映画をガス・ヴァン・サントが撮ったという先入観からすると、もっと力が入っていそうだがそうでもない。何より素晴らしいのはその取捨選択にある。やはり監督の興味は政治家としてのミルクよりも人間ミルクと彼を取り巻く人たちにあるようだ。ミルクの政治家としての位置付けなどは面倒くさいところは省略しているので市長や後任市長になるミルクの同僚などは影が薄い。市政委員という制度自体が日本人にはなじみがないし、問題が州単位だったり市単位だったりするのも分かりにくいが上にあげた理由で気にならない。ゲイの活動家としてははカミングアウトの効果を説くところが重要か。
俳優たちの演技は良い。ショーン・ペンのミルクはそれこそ先入観を覆すようなカワイイ笑顔に驚かされる。さらにはジェームズ・フランコの明るさとディエゴ・ルナの暗さの対比や若手俳優の適材適所も光る。しかしなんといっても裏ミルクとしてのダン・ホワイトの描き方が見事だ。ジョシュ・ブローリンもここ数年の突然のブレイクがフロックではないところを見せてくれる。これらを監督がうまく生かしていることが重要だ。これは俳優の力だけで引っ張ろうとした「レスラー」と比べるとよく分かる。
保守的なホワイトと進歩的なミルクという単純な比較だけではなくしがらみに縛られたホワイトとしがらみが少ないから目的のために妥協するところは妥協する。そこをしっかりと描いたからこそ、ミルク暗殺の場面をドラマチックにしなくても映画は生きるのだ。その辺は実は似ているところも多いショーン・ペンの失敗作「オール・ザ・キングスメン」と比べるとよく分かる。