ATOM : インタビュー
手塚治虫の「鉄腕アトム」をフルCGアニメーション映画化した「ATOM」を手がけたのは、香港とロサンゼルスに制作拠点を持ち、東京にも支社を構えるアニメーション制作会社「イマジ・スタジオ」だ。ハリウッドのピクサーやドリームワークスアニメーションが世界のCGアニメ史上を席巻する中、香港で生まれたイマジの「ATOM」にかける思いを、同社の創設者でクリエイティブ部門を取り仕切るフランシス・カオに語ってもらった。(取材・文:編集部)
創設者が語る、イマジ・スタジオが「鉄腕アトム」映画化を手がけた意図
イマジ・スタジオの設立は2000年とまだ歴史は浅いが、自社制作の3DCGTVアニメ「時空冒険記ゼントリックス」(02・NHK BS2で放送)やドリームワークス・アニメーションからTVシリーズの制作を受注するなどして技術と経験を蓄積。07年に同社初の劇場用長編作「ミュータント・タートルズ/TMNT」(日本未公開)を送り出し、全米初登場1位を獲得する。同作に続く劇場長編第2作が今回の「ATOM」だ。
イマジを設立したカオは、10年ほど前のアメリカ留学中に「ポケモン」を見て強い印象を受け、そのときから「既にあるアニメコンテンツをリメイクし、より世界に広げていきたい」と思うようになったという。イマジでは「鉄腕アトム」に続き、「科学忍者隊ガッチャマン」の映画化も進行しているのは有名な話だ。
「『ATOM』は当初権利を持っていたソニー・ピクチャーズが手放すことになり、我々が権利を獲得しました。その時、すでに『ガッチャマン』がプロジェクトとして立ち上がっていましたが、日本を象徴するアニメでもある『鉄腕アトム』を先にしたほうが、会社にとっても宣伝効果があると思い、『ATOM』を先に送り出すことにしました。我々のような、まだ小さな会社が『ATOM』を手がけることができたのは、とてもラッキーだったと思います。手塚プロダクションとは、製作初期から綿密にやりとりをさせてもらい、ストーリーの構築やアトムのスタイルなどについても詳細に話し合いました。彼らの協力なくして実現はなかったでしょう。また、ソニーのようなメジャースタジオが『ATOM』を実現できなかったのは、彼らは多くの企画を抱えていて、ひとつの作品に注力できなかったということがあると思います。私たちは小さいスタジオで、2年に1作品のペースでしか作れず、ひとつの作品に全力投球するしかありません。その点もまた、今回のプロジェクトが実現できた理由だと思います」
「TMNT」はアメリカの、「ATOM」「ガッチャマン」は日本の人気アニメの映画化。現在のところ、各国の人気アニメを次々とCGアニメ化するのがイマジのスタイルのように見えるが、当面はこうしたリメイク作を送り出すことで、実績や知名度を上げていくことが課題だという。
「我々とピクサーやドリームワークスの一番の違いは、資金力や歴史です。彼らにはそれがありますが、我々はまだない。どのくらいの予算規模になるかも読みづらく、企画から完成まで5年はかかるオリジナル作品よりは、たとえば『ATOM』のように最初から認知度があり、バジェットもどの程度かかるかが読める作品を手がけることから始めたいと思いました。これから数年間は、既存のアニメを長編CG化するという状態が続くと思います。ただ、ゆくゆくは香港のオリジナル作品を手がけたいとも思っています。特に中国のマーケットは成長してるので、そこにチャンスがあると思います。また、今回の『ATOM』の製作費は約6000万ドルでしたが、オリジナルコンテンツを作るのであれば、劇場作品に限らず、たとえばオンラインでのコミック配信など、大きなコストをかけずに新しいものが作られるのではないかということも考えています」
同社は今年初めに「鉄人28号」のプロモーション映像を公開し、ネット上で話題になった。「ATOM」「ガッチャマン」に続いて、日本アニメ原作の第3弾になるのか? 今後のプロジェクトは?
「『鉄人28号』については、まだ権利は獲得していません。あの映像は、まずティーザーを作り、反応をうかがってみようと思って作ったものですが、いまのところ割と良い反応をいただいてます。『ガッチャマン』は結構進んでいますが、メインキャラクターが5人いる上に、ストーリーラインも『ATOM』ほどわかりやすいものではないので、『ATOM』より難しく、製作にも時間が必要です。今のところ2011年の第1四半期の公開を目指しています。他にも日本のゲームキャラクターにも興味がありますが……具体的なタイトルについては、まだコメントしないほうがいいかもしれませんね(笑)」
アメリカでは初めての長編「TMNT」が興行ランキング1位を獲得するという実績を持つイマジだが、自国アニメの人気が根強い日本で、「ATOM」がどのように受け入れられるか。また、イマジがピクサーやドリームワークス、あるいは日本のスタジオジブリやプロダクションI.Gなど、世界に名だたるアニメスタジオに比肩する存在になる日が来るのか。今後の動向からも目が離せない。