「変身系SFシナリオの傑作」第9地区 erimakiさんの映画レビュー(感想・評価)
変身系SFシナリオの傑作
終始飽きがこない、集中力が途切れそうになる瞬間というものがない、それ程のめり込んで鑑賞できた。割と無理に集中力を出して鑑賞せねばならないような作品も(のほうが)多いゆえ、噂に違わぬ秀逸な映画だと感じた。
■世界観の説明がうまい
世界観の説明とは一番厄介な作業。特に日常生活を描いた作品ではなく、SFやファンタジーなど設定が作者による創作に依るところが多いと尚更だ。くどくどとナレーションじみて長くなると鑑賞者はうんざりし、かといって伝えきれないと作品に没頭できない。
しかしニュース調やドキュメント調で語っていくという手法を取り入れることで新鮮さやリアル感をうまく出し、少々荒っぽさややっつけ感はあるとはいえ、ディスクリプションの必要最低限を簡潔にまとめており、うまいなと思った。
■鑑賞者はヴィカスの敵か味方か?
主人公のヴィカスが異星人に変身していく過程で、もはや人間界には受け入れられず、かといって異星人にはなりたくない(当たり前だが)、だからと行ってエイリアン達も味方というわけでもない。様々な感情が入り混じってヴィカスに感情移入する。鑑賞した方は彼にどのよう印象を持っただろうか?人間ならざる何者かに変貌していくことへの恐ろしさ、可愛そうと思う心、助かってほしいという想い、あるいはどんなおぞましい変異を遂げるのか?という好奇心や怖いもの見たさもあるだろう。恐怖、同情、憐憫、あるいは怒り?
怒りとは、度々印象付けられる人間の身勝手さ、異種族を蔑視、迫害することの嫌悪感。
変貌を遂げていくヴィカスの思考はあくまで自分本位(ある意味人間らしい部分)であってエイリアンは下等生物か何かだとでも言うような差別する心を持ち続けてそこはなかなか変貌を遂げず、幾度もエイリアンに歩み寄っているように見せて土壇場になると裏切るヴィカスに助かってほしいのか、むしろくたばってほしいのか、よくわからなくなる。本来は勧善懲悪がはっきりしている物語がセオリーと言える中、善と悪の間を行ったり来たりする。とても興味深い展開。
だから最後の最後のヴィカスの利他的な行動は強烈に印象付けられた。おそらく最初からヴィカスが完全にいい奴として描かれていたならばここまで感情移入はできまい。利己的なキャラとして引っ張っておいてからの最後の最後で利他的な行動をさせることでギャップ最強の法則の基に一気に鑑賞者の心を掴む。
そして更にトドメの一撃がラストシーン。完全に変異してしまったその姿と一輪の花というコントラスト、なんと切ないことか…。
■定番系シナリオではある
人外の何かに変貌する系シナリオというのはもはや定番のひとつかもしれないが、かつての人としての温かみが失せて言葉すらまともに扱えなくなってしまうような展開というのは、いつの時代も切なく、心揺さぶられるものだ。
ちなみににこの手の物語で私の印象に残っているストーリーといえば『アキラ』の鉄雄、『火の鳥 宇宙編』のナナ、あと『バイオハザード CODE:Veronica』のスティーブとか…。
■エイリアンのデザインについて
ややグロテスクだがコミック調過ぎず、いい感じにリアルなのがまたいい。あれ以上ポップになると子供向け映画になるし、あれ以上グロくしてしまうとホラーになってしまう。絶妙な塩梅でキモいと感じた。
■厨二病ウェポンの是非
武器やパワーアーマーのデザインが厨二病っぽく、違和感を覚える人もいるかもしれない。リアルな異星人と人間との共存が主軸でありながらそこだけサイバーパンクしてんなーみたいな。とはいえ、一発で人体を粉微塵にする弾丸だとかギャングが総射撃した弾を空中で止めつつ集約させて一気に弾き飛ばす(とっさに『寄生獣』が思い浮かんだ>後藤が軍隊の弾丸を体内でかき集めて放出するシーン)など、攻撃パターンのアイデアは面白かった。また血がカメラのレンズにまで飛沫がつく演出、あれいいよね。