第9地区 : 映画評論・批評
2010年3月30日更新
2010年4月10日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
SFを触媒に社会問題を照射しつつ、娯楽精神に満ちた大活劇へ昇華する
語り口も視覚的にも極めて斬新。疑似ニュース映像で引き込み、果ては壮大なアクションを堪能させる。実験的手法と大衆性を同居させた新鋭ニール・ブロムカンプの手によって、ありふれたモチーフや話法が生彩を放ち始めるのだ。
巨大UFOがヨハネスブルグ上空に覆い被さる非日常的な光景にまずは驚かされる。工業地帯を逆さにしたような母船の中に居たのは、侵略者ではなく大量の難民。差別の対象としてのエイリアン像は、南ア生まれでアパルトヘイトを知るブロムカンプの原風景であり、今なお地上から消えない移民問題を彷彿とさせる。そう、本作のモキュメンタリー形式は虚実を曖昧にするのではなく、SFを触媒に現実を照射するために意味を成す。国連を揶揄したような難民管理組織の職員の身に起こる事態から物語は動き出すのだが、被差別者の立場を思い知らせる仕掛けこそ真骨頂。視点は切替わり、醜悪な生き物にまで感情移入させる演出マジックが冴えわたる。
繰り返されるイメージがある。堅牢な円盤内の生理的な造形、甲殻生物の臓物、人体の変異、あるいは国家の中のスラム化した特区。それは秩序という硬い甲羅の下で抑圧された無秩序が露わになる文明批判に他ならない。そんな構造を突き破り、なんとクライマックスではロボットアニメ魂を披露し、さらにはハートウォーミング路線へとなだれ込むという超絶技巧。カナダ育ちのブロムカンプは、クローネンバーグの内臓を備えながらスピルバーグの精神を併せもつハイブリッドであることを高らかに宣言する。
(清水節)