劇場公開日 2009年6月19日

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愛を読むひとのレビュー・感想・評価

全65件中、1~20件目を表示

4.5【91.6】愛を読むひと 映画レビュー

2025年8月12日
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鑑賞方法:VOD

作品完成度
本作の完成度は、一貫して抑制されたトーンと、細部にまで行き届いた演出によって、原作が内包する複雑なテーマを深く掘り下げている点にある。一見すると、これは単なる恋愛映画のように見えるが、その実、物語の核にあるのは、戦後ドイツの加害者世代と、その罪と向き合わねばならない次の世代との葛藤である。ハンナの抱える「読み書きができない」という秘密は、彼女の戦時中の行動、そして裁判での証言を左右する決定的な要素となり、物語全体の展開に不可逆的な影響を与える。この秘密を軸に、彼女の自己欺瞞、そしてマイケルの無力感と後悔が重層的に描かれ、観客は個人の愛と社会的な罪の境界線を問い直される。監督スティーヴン・ダルドリーは、この繊細なテーマをセンセーショナルに描くことなく、静謐なタッチで描き切っている。特に、ハンナがマイケルの朗読テープを聴きながら文字を練習するシーンは、彼女の贖罪と成長、そしてマイケルとの精神的なつながりを象徴的に表現し、強い感動を呼び起こす。
監督・演出・編集
監督スティーヴン・ダルドリーの手腕は、原作の持つ重厚なテーマを崩すことなく、映画的な視覚言語で再構築した点にある。彼は、登場人物の感情の機微を、雄弁な台詞ではなく、表情や仕草、そして空間の演出によって表現する。編集のクレア・シンプソンは、過去と現在を行き来する物語を滑らかにつなぎ、ハンナとマイケルの関係性の変遷を効果的に見せる。特に、法廷でのハンナと、傍聴席から彼女を見つめるマイケルの視線が交錯するシーンは、二人の関係性の断絶と、それでもなお消えない絆を暗示し、観客の胸に深く刺さる。抑制された演出は、物語の核心にある悲劇性を一層際立たせ、観客の感情を揺さぶる。
キャスティング・役者の演技
本作の成功は、そのキャスティングの妙に大きく左右される。特に、主演女優ケイト・ウィンスレットの鬼気迫る演技は、本作に計り知れない深みを与えている。
ケイト・ウィンスレット(ハンナ・シュミッツ役)
ハンナという難役を演じきったケイト・ウィンスレットの演技は、驚くほど多層的である。彼女は、マイケルとの愛に溺れる奔放な女性、職務に忠実な看守、そして裁判で己の罪と向き合う被告人という、異なる顔を持つハンナを見事に演じ分ける。特に、読み書きができないという秘密を抱えるがゆえに、法廷で屈辱的な選択を迫られるシーンでの、彼女の表情は観客の心を打ち砕く。プライドと羞恥心、後悔と諦念が入り混じった複雑な感情を、一瞬の目の動きや口元の震えだけで表現するその演技は、まさに圧巻。彼女の演技は、ハンナという人物の持つ人間的な弱さと、それでもなお保とうとする尊厳を鮮やかに描き出し、観客は彼女の行動を単純に断罪することができなくなる。この演技で彼女は、第81回アカデミー賞主演女優賞を受賞。
デヴィッド・クロス(若い頃のマイケル・ベルク役)
15歳の少年マイケルを演じたデヴィッド・クロスは、ケイト・ウィンスレットという大女優を相手に、堂々たる演技を見せる。彼が演じるマイケルは、ハンナとの出会いによって性的な目覚めを経験し、純粋な愛と官能に揺れ動く思春期の少年を瑞々しく表現する。ハンナが姿を消した後の喪失感、そして法廷で再会した際の困惑と苦悩を、その繊細な表情で的確に伝える。彼の演技は、マイケルの成長と内面の変化を丁寧に描き出し、物語に説得力を持たせている。
ラルフ・ファインズ(大人になったマイケル・ベルク役)
大人になったマイケルを演じるラルフ・ファインズは、過去のハンナとの関係から未だに解放されず、苦悩を抱える男の静かなる葛藤を表現。彼の存在は、物語の語り部として、観客にハンナとマイケルの物語の結末を暗示する役割を担う。ハンナの死後、彼女の遺産を巡って娘と話すシーンでの、過去の自分を振り返る彼の憂いを帯びた表情は、この物語が単なる悲恋物語ではない、より深い人間ドラマであることを示唆している。
ブルーノ・ガンツ(ロール教授役)
クレジットの最後に出てくるブルーノ・ガンツは、法学部の教授として、マイケルに戦犯裁判の傍聴を促す重要な役割を担う。彼は、過去のナチスドイツの罪と向き合い、それを次の世代に伝えようとする知的な指導者を、落ち着いた演技で表現。彼の存在は、マイケルが個人的な関係性から一歩踏み出し、社会的な罪という大きなテーマに向き合うきっかけとなり、物語のテーマ性を補強している。
脚本・ストーリー
デヴィッド・ヘアーによる脚本は、ベルンハルト・シュリンクの原作小説『朗読者』の複雑な構成を巧みに再構築。物語は大きく三つのパートに分かれる。少年時代のマイケルとハンナの恋愛、大学生になったマイケルが法廷でハンナと再会するパート、そして大人になったマイケルがハンナの死と向き合うパート。それぞれのパートが独立していながらも、ハンナの「読み書きができない」という秘密によって結びつけられている。このストーリーテリングは、個人の愛と、ホロコーストという歴史的な罪という、二つの異なるテーマをシームレスに融合させている。
映像・美術衣装
クリス・メンゲスとロジャー・ディーキンスによる撮影は、1950年代のドイツの空気感を見事に捉える。少年時代のマイケルとハンナの情事を描くシーンでは、光と影を巧みに使い、官能的でありながらもどこか純粋な雰囲気を醸し出す。一方、法廷や刑務所のシーンでは、無機質で冷たいトーンが、物語の重苦しさを際立たせる。衣装はアン・ロスが担当し、時代背景を正確に反映した衣装が、登場人物の社会的地位や心理状態を巧みに表現。特に、ハンナが看守として着る制服は、彼女の厳格さと同時に、彼女が自らのアイデンティティを形成しようとする様を象徴する。
音楽
ニコ・マーリーによる音楽は、物語の情感を静かに、しかし深く彩る。派手なオーケストラではなく、ピアノを主体としたミニマルなスコアは、登場人物たちの内面の葛藤や悲しみを繊細に表現。特に、ハンナが朗読テープを聴くシーンで流れる音楽は、彼女の孤独と、マイケルへの想いを静かに描き出し、観客の心に強く響く。主題歌はないが、このスコア全体が、作品のトーンを決定づけている。
受賞歴
本作は、第81回アカデミー賞において5部門にノミネートされ、ケイト・ウィンスレットが主演女優賞を受賞。スティーヴン・ダルドリーは監督賞にノミネートされ、長編デビュー作から3作連続での監督賞ノミネートという快挙を成し遂げた。この受賞歴は、本作が批評家からも高く評価された傑作であることを裏付けるもの。

作品
監督 スティーブン・ダルドリー
129×0.715 91.6
編集
主演 ケイト・ウィンスレットS10×3
助演 レイフ・ファインズ A9
脚本・ストーリー 原作
ベルンハルト・シュリンク
脚本
デビッド・ヘア A9×7
撮影・映像 クリス・メンゲス
ロジャー・ディーキンス
A9
美術・衣装 ブリジット・ブロシュ A9
音楽 ニコ・ムーリー A9

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honey

3.0結末のそのケイトウェンスレットが刑務所に入った後もそのケイトウェン...

2025年4月25日
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鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

怖い

驚く

結末のそのケイトウェンスレットが刑務所に入った後もそのケイトウェンスレットの彼氏が本を読んで、それを声を上げて朗読したそれをカセットテープに録音して、もう刑務所の中に居るその文盲のそのケイトウェンスレットに幾度も送り続けたでしたが、その原作をまだ読んでませんが、それが信じられませんが、その小説なりにその映画なりにそれがないと話が続いていきませんが、そのケイトウェンスレットが美人だが、戦前にナチスの女子刑務所の官吏で、またロマ人でさらに文盲だったが、戦後にその罪を問われ、一人責任を負ったが、法廷での法廷言語に黙秘権を行使しますがありますが、知的障害者や身体障害者だと自分の意見を自分の判断として自己責任として語れないですが

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39stepbacK

3.0いきなり違う映画が始まってびっくりした

2024年11月9日
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自分 脚本家になろうとしたことがあるから分かりますよ
脚本 ってのは最初のところをうまく書くのは難しいんです
うまく滑り出して30分ぐらい持ってるとなると捨てるのはもったいないんですよ
そこで どうするか すったもんだ 考えてその後なんかネタをくっつけた
そんな感じの話に見えました
途中で飽きました

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KIDOLOHKEN

5.0抱えてるもの

2023年7月29日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

観る前のイメージでは、
また年上女性とのひと夏の恋ですかと。
また若者の性はとまらんが年取ってから懐かしく思い出すわよ、かいなと。
ですが中盤からガラリと変わり、
涙なしでは見れない展開になります。

そこまでが微妙に見ててキッツイなあって気分にもなるのですが。
とにかくケイト演じるハンナが、まあどこがどう魅力的なのかは
つかみにくいが
何か悲しい秘密をもってるんだろうなってのは
匂っていてそこがひきつけられる。

抱えるにはあまりにも重く、
とても他人に打ち明けたり分かち合えるようなものでもない。
孤独だ。

これは被害者にあたる彼女の方も同じで、
あまりにも重い悲しみはむしろ分かり合えないし
分かち合えない。

少しは物がわかったかと思った主人公マイケルが二度、三度と
打ちのめされていく姿は観ていて
自身の思いもなんとも生ぬるいのだろうかと
突きつけられる思いである。

当初はニコール・キッドマンを予定していた役だが、
実際に見るとケイト・ウインスレット以外に考えられない。
ケイトはすごかった。
そこに座って、歩いて、それだけでハンナを表現してた。
さすがアカデミー主演女優賞。
すばらしかった。

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ひよこまめぞう

4.0初体験の相手の思い出

2022年11月10日
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鑑賞方法:VOD

ダフィットクロス扮する15歳のマイケルは、学校帰りに病気になり動けなくなっていたところケイトウィンスレット扮するハンナシュミッツに助けてもらった。
思春期の僕が年上の女性に裸で迫られれば、そりゃあ抵抗の余地が無くなってずっぽりはまってしまうだろうね。男性にとっては夢の様な話だろうが、ハンナからするとただ持て遊んでいただけかもしれない。しかし15歳の僕には一生拭えない出来事になってしまった。
ハンナは常に本を読んでもらう事を好んでいたが、その後ハンナはマイケルの前から突然消えてしまい、マイケルが法科の学生としてゼミで裁判所の裁判を傍聴した時、偶然ハンナが出廷していた事で再会した。実はハンナはアウシュビッツで看守をしていて裁判にかけられていたと言う重い話。ハンナには秘密があった。
初体験の相手にず~と引きずられてしまうが、男にとってはやむを得ないだろうね。そういうもんだからな。ケイトウィンスレットの体当たり演技は官能的で素晴らしかった。マイケルじゃないけど、引きずられてしまうね。だけど、ラストシーンで娘に父親のこの手の青春の思い出を語るのはちょっと考え物だと思うな。

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重

2.0むう、

2022年9月25日
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いろんなことを思うけど、ま、見た記録のためのレビュー。

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みけい

4.0願いのような作品

2022年9月5日
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鑑賞方法:VOD

二次世界大戦後のドイツを舞台にした悲哀の物語。
スティーブンダルドリー作品でしたが、いまいちピンとこなくてスルーしてました。
が、プライムで見かけたのでふと観てみることに。
ケイトウィンスレットの佇まいが良く、その芝居もとんでもなく惹かれるものがありました。
そして若きマイケルを演じたダフィットクロスも、その肢体が若さに満ち溢れていて別の魅力に溢れてましたね。
二人のロマンチックな逢瀬は、その時代背景に大きくその運命を歪めていく。
…といった話でしたが違いました。
いや、あくまで個人的にですが、違うように見えてきました。

裁判から急激にシリアスになり、それぞれの葛藤を描かれていきます。
その辺りからいくつもの小さな「なぜ?」があったのですが、二人を通じもっと広く描いたものに見えてきました。
裁判自体アウシュビッツ裁判でしょうし、ここを主軸のようにじっくり描いていきます。
そんな中教授の言葉は、むしろ我々に投げかけてくるようでした。
文盲とそれを隠すのはロマ族(ホロコーストと同じ虐殺対象)だとは薄々分かるのですが、それをはっきり示さないのも"あえて”なのでしょう。
後悔の念と何処か目を背けたい過去。
手紙に目を通さなかったりと、ちゃんと向き合えないやり取りの末の別れ。
そうして迎えたラスト。娘に話し始めるその姿は、まるで希望を託しているようでした。

そしてこのラストで、はっきりと自分の中で腑に落ちたのだと思います。
これはドイツそのものを描いたものではないだろうかと。
できればなかった事としたい恥ずべき歴史ナチスドイツ(ハンナ)、それを未だどう向き合えば良いのかわからないままでいる現ドイツ(マイケル)、そしてそれらを踏まえ乗り越えてほしい未来への希望(ジュリアン)。
歴史を受け継ぎ、過去に目を背けず、これからの未来へと繋ぐ。
ドイツという国への問いかけと、願いのような作品と感じました。

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白波

4.0甘美な物語にこもる戦争悲劇

2022年7月13日
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泣ける

悲しい

怖い

バスの車掌をしている疲れ果てた女性が、
ふとした切っ掛けで15歳の少年をくわえ込んだ物語の端緒は、
デボラ・カーの『お茶と同情』を思わせました。

親と子ほども離れた不実な恋物語の始まりを感じさせましたが、
謎の女の正体を求めて、
上級なシナリオはサスペンス豊かにグイグイ引っ張って行きます。

声がいいから、と少年に本の朗読をせがむ
家族の気配がない不思議な女は、
職場の勤務状態が良いから、事務職に昇進を告げられた日に失踪する。

8年後、
少年が女を見たのはユダヤ人収容所の看守だった女を裁く法廷。

不思議な女を演じるケイト・ウィンスレットが秀逸です。
目の演技が、他に比較できない印象を残しました。

彼女の出生の秘密は明かされなかったかも知れませんが、
少年の経験は、彼の一生に大きな影をもたらす、
甘美な初恋だったことは間違いありません。

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ezu

3.0前半とは一転後半は切なく重い。 どうにもならない感情が渦巻きます。...

2022年6月21日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

前半とは一転後半は切なく重い。
どうにもならない感情が渦巻きます。
最後の面会、お互いにあと少し素直に歩みよってたら違った形になったのかなぁと思いつつも、文盲な彼女を彼は最後まで愛し守ったんだと思う。

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よっしー

4.0あなたならどうするか

2022年4月28日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

映画中盤、法廷でのハンナのひと言。

あなたなら、どうしたか?

この言葉に集約される物語。

もしも裁かれている時に、ハンナが正直に答えていたらどうなったか。
マイケルがハンナを助けんと立ち上がったらどうなったか。

私ならどうするだろう。

そんなお話でした。

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映画鑑賞初級

4.0プライドとは命懸けで守るもの。

2022年2月18日
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もし罪深い私を盲目的に愛して求めてくる青年がいたら、どんなに愛おしく感じる事だろう。そしてそれはほんのひととき自分の人生に輝きを灯してくれる。

原作も映画もこの点を外す事なく描いていたのが良かった。

それは、青年の人生には問いかけを、彼女の人生には答えを与えてくれた物語。

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大粒 まろん

4.0朗読を通じて育む神秘的な愛...

2022年2月18日
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鑑賞方法:DVD/BD

原作は読んだことないし、鑑賞前まではごく普通のラブストーリーかと思いきや全然違った。
とても深刻な物語だった。愛、差別、葛藤、秘密...挙げきれないほどたくさんの要素が組み込まれている。
胸が締め付けられるように苦しくて、鑑賞後何とも言えない感情を抱いた。特に後半からラストにかけての展開は驚きのひと言に尽きる。
本作の主人公ハンナを演じたケイト・ウィンスレットは登場人物に命を吹き込むのが本当に上手い。どんな役であっても自分のものにというかその人物そのものになってみせるのだから驚きだ。

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しゃい

5.0【苦悩と葛藤の先/年上の女性と年下の男性の恋愛②】

2021年12月19日
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この作品は、想像力を要所要所で広げる必要があるなと思う。

実は「人のセックスを笑うな」を久々に観て、ふと、年上の女性と年下の男性の恋愛の映画を観直してみようと思った。

「甘いお酒でうがい」と「私の知らないわたしの素顔」は既にレビューを書いているので、いろいろ調べて、今、僕がサブスクで観ること出来て、当時鑑賞して好きだったものをチョイスしてみようと思った。

まずは、多くの人がおそらく外すことがないであろう「愛を読むひと」だ。

この物語はとても悲しい。

だが、僕はどこか、僕たちの世界に向けた希望を提示しているようにも思えるのだ。

構成の各パートのギャップの大きさ、そして、この作品に用意された結末が、マイケルやハンナは本当はどうすべきだったのか、実は、答えのない問いを僕たちに投げかけているように感じられる。

答えのない問いとは、僕たちの未来に向けたメッセージだと思う。

(以下ネタバレ)

この作品は、大きく三つのパートから構成されている。

実は、この構成は、単なる物語の展開だけではなく、問いかけを考えるうえでも重要な役割を果たしているように思える。

一つめは、マイケルとハンナの出会いだ。

マイケルが20歳近く年上の女性ハンナと出会い、恋に落ち、逢瀬を重ねる。

若い男性が年上の女性と恋に落ちる際は、多くがセックスへの興味であることは間違いないように思う。

しかし、朗読を通じた心の交流が次第に深まる。

次のパートは、ハンナがユダヤ人虐殺にどう関与したかの裁の場面だ。

最初のパートでうすうす感じていたことだが、ハンナは字が読めない。当然書くことも出来ない。

それは裁判では触れられず(”ハンナも口を閉ざし”)、SSという仕事を選ばざるを得なかった理由も明らかにならないまま、他被告人の罪のなすりつけもあり、ハンナの罪はより重くなってしまう。

ハンナはなぜ本当のこと言わなかったのか。

教授に促されたのに、なぜマイケルは証言しようとしなかったのか。

なぜ、人間が培ってきた法律という知恵が働く機会を失ってしまったのか。

そして、最後のパートは、収監されたハンナとマイケルの朗読を通した心の交流だ。

結婚し、娘をもうけたものの離婚したマイケル。

証言できなかったという自分の罪の意識と向き合っていたのだ。

意図していたわけではないが、多くのユダヤ人を死に追いやってしまったことを許すことが出来なかったのか。

彼女を愛していたから、それを公に出来なかったから証言しなかったのではないのか。

献身的ともいえるマイケルの膨大な朗読テープの作成。

テープを手掛かりに、字を学び、曲がりなりにも読み書きが出来るようになったハンナ。

20年の収監の後、釈放の機会を得たハンナ。

長い年月を経て再開したハンナとマイケル。

20年で何を得たかハンナに問うマイケル。

字を書けるようになったと答えるハンナ。

おそらく、マイケルは、罪とどう向き合ったのか聞きたかったに違いない。

だが、ハンナは、読み書きが出来なかったと自分の”最も重大な秘密”をマイケルに打ち明けたつもりだったのではないのか。

釈放を前にしたハンナの自死。

ハンナは、裁判で読み書きが出来なかったことを隠したように、マイケルに罪と向き合っていたことも話してはいなかった。

それは、罪はマイケルに対してではなく、亡くなったユダヤ人や家族に対して向き合っていたからではないのか。

ハンナは読み書きを学び、本さへも読めるようになる過程で、罪と向き合うだけに止まらず、罪とどのように向き合うべきなのか自分なりに考えるようにもなっていたのだ。

だから、釈放されるつもりはなかったのだ。

だから、遺族に少しでもとお金を貯めていたのだ。

ハンナの死で、マイケルは様々なことを理解したのではないのか。

年上の女性と年下の男性の恋愛映画というカテゴリーで観たけれども、それ以上に考えさせられる映画だった。

感情移入をメインに”自分だったら”という括りでは計り知れない気持ちの揺らぎが感じられると思う。

そして、より良い判断を重ねるために、教育がいかに重要なのかも問いかけていると思う。

だから、遺族の女性は、ハンナを理解し、ハンナがお金を貯めておいた缶を手元に置いておくことにしたのだ。

世界の中には、女性に教育は必要はないという宗教や民族がある。

中国のように一部の民族を弾圧し、思想教育をしている国家もある。

アメリカのような民主主義国家でも、白人至上主義的な家父長主義(パターナリズム)の色濃い地域では、女性の地位が低いままだったりもする。

日本でも同様なことは多い。

この作品は、文盲を背景にし、読み書きが出来ないことで起こった悲劇と、その中で苦悩・葛藤する男女の姿を表していると思うが、今、世界ではコロナ禍でもワクチン接種も含めて、平等とは何か、より良い判断を重ねることの重要性などが問われていると思う。

民主主義の重要性の理解や、より良い未来を思い描けるように、教育が重要だということも暗示しているように思える作品だった。

最後、マイケルがハンナのお墓の前で娘に話すストーリーは、きっと未来や希望につながるもののはずだ。

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ワンコ

4.0ケイトさん綺麗

2021年9月24日
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マイケルと青年期と現代の役者さんの表情もどことなく似ていて、回想シーンから現代に戻っても物語にスッと入りやすかった。

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あみにゃ

4.5「差別」を問う映画

2021年8月22日
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2021年8月19日

たまたまNetflixで発見し視聴。
邦題とあらすじだけを見て、先が読めないなと思いつつ視聴しましたが、明らかに邦題ミスな気がしました。

たしかに「愛」はあったのだと思いますが、そこがテーマではない気がしました。

映画を見ながら、文盲に気づき、あっと言わされました。
今の日本人にはあまり縁のないことなので、見落としていましたが、海外ではありえる話なのです。
文盲に気づき、今までのハンナの言動に納得しました。(本を読ませる、昇進を断る、筆跡鑑定を断る)

しかし、映画を観終わっても、ハンナの自殺の原因やマイケルの行動(ハンナの遺言に基づいて寄附活動する)、収容所から生き残った女性の何かを悟った感慨深い表情などに納得がいかず、もやもやしました。単なる恋愛感情では片付けられない描写でした。

そこで他にレビューを拝見していると、「ロマ(ジプシー)」という存在を挙げている方を発見し、納得しました。
原作を読んでおり、ヨーロッパの人種差別事情に明るくないと分からないテーマでした。

流浪の民で、ドイツを含め、ヨーロッパ中から差別を受けていたのがロマです。
その差別の歴史はナチのユダヤ人差別より歴史が深く、流浪ゆえ、文盲である者が多いという特徴があります。
ハンナは文盲ということがバレるとロマだと思われ、差別されるのが怖かったため、秘密にしていましたが、文字を学ぶことで自分のした行為を知り、結果的に自殺という選択をとったのでしょう。
終盤に、ニューヨークに住む収容所からの生き残りのユダヤ人が「文盲はユダヤ人に相応しくないテーマかもしれませんが」というセリフは、まさにロマのことをさしたセリフなのでしょう。

とても良い映画でした。ただ、自分の無知を改めて思いました。

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ちん

4.0原作よりずっと良かった

2021年5月7日
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悲しい

知的

この映画を勧めて下さった皆様、ありがとうございます。やっと、配信ではありますが観ました。とても良かったです。ケイト・ウィンスレットが素晴らしい女優であることも改めて確認できました。彼女のしっかりした骨格がトラムの車掌の姿、裁判所での佇まいをきちんと格好良く見せてハンナの真面目さを表していました。そして繊細で戸惑いつつ決断する彼女の表情の豊さに引き込まれました。

原作が出てすぐ読み、私は主人公の男(ミヒャエル)に非常に怒りを覚えこの本が大嫌いになりました。もっと言えば許せませんでした。それがこの映画を見ていなかった理由の一つです。

映画では、マイケル(原作:ミヒャエル)役のデビッド・クロスがギムナジウムに通うまだ15歳でお行儀よく誠実で、初めての愛と経験にのめり込む男の子を可愛らしく素敵に演じていました。お家はインテリ。思春期の息子を見守る両親も良かったです。母親はその後もずっと息子を見ていました。ハイデルベルク大学で法学専攻になってゼミを受け、ハンナがまさに被告である裁判見学の時のマイケルの苦悩もまっすぐ伝わりました。

大人になり弁護士になってからのマイケルを演じたレイフ・ファインズも良かったです。ただ、なぜ返事を書かなかった?学習して文字が書けるようになった人と文通するなんて問題外とインテリのあなたは思ったのでしょうか?或いは「ナチ」と無関係でいたかったのでしょうか?あなたはどういう「弁護士」?
妻と離婚後も娘とはいい関係を持ち、ハンナが涙を流していた教会に娘を連れ「僕が15歳の時に…」と娘に語るという設定は懺悔でもあり美化と逃げも絶対あるでしょうが、悪くないと思います。というか許します。

ただ、釈放されることになったハンナに15歳の夏以来初めて再会して、彼女と交わした言葉と彼女に尋ねた内容を除けば、です。私がハンナの立場であれば彼女と同じ選択をしたでしょう。

評価の高かったこの映画を見ていなかったもう一つの理由は、原作がドイツ語で極めてドイツの話なのに映画での言語が英語だったからです。ベルリンの街も郊外(ポーランドやチェコでロケをしたのでしょうか)も明らかにヨーロッパ北部の風景でした。ブラジャーにアイロンかけるのも、体を洗うのに使うのが封筒型のタオルであるとか、法学専攻学生は学内でもネクタイしているとか、誕生日は何にもまして大切であるとか、恐らく今でもドイツで普通のことを細かく再現して映していたのは本当に良かったです。でも、あのナチ関連の裁判が英語でなされたこと、ハンナに朗読する作品は色んな言語が原作であっても全部英語だったのは非常に残念でした。裁判は言葉が命、そして朗読はドイツ文化の一つだからです。

でも、良かったです。

法学の教授がブルーノ・ガンツ!裁判で発言した、母と共に生き残ったユダヤ人役の可愛い娘がアレクサンドラ・マリア・ララ(「ラッシュ」でニキ・ラウダの妻役、「コリーニ事件」では主人公の父親代わりの娘役)!嬉しかった。

おまけ
思わず笑ってしまったのは石炭持って来いの指示。案の定、マイケルうまくできず顔が真っ黒。「アンモナイト」もそうでした!

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talisman

4.5場面場面で涙が溢れ出ます。

2021年4月15日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

単純

難しい

初回は映画館で。その後書籍も買いました。何回かレンタルやVODでも見ています。37歳になった今、涙が止まりませんでした。また次に見た時、涙が出るかは分かりません。それがまた面白いですよね。
全ての登場人物、その行動一つ一つ、合点がいくんです。最後まで素晴らしい作品でした。ありがとうございました。

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donalddaisy

3.5「じゃあ、どうすればよかったのですか?」

2021年2月23日
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鑑賞方法:VOD

ホロコーストの看守として職を得たハンナは殺人を犯したのか?
キツい差別の中で育ったロマ人のハンナ
この時代に生まれてないので
自分の身に置き換えて考えられないんだけど
神と自分に正直に生き抜くことが出来たのだろうか…
いや、無理だよね

前半は少年と女性との肉体関係だった
ご褒美は彼女に本を読んであげること
その頃車掌をしていたハンナが勤務態度を認められ
事務職としての昇進を持ちかけられるが…

そこから話は飛んで
ホロコースト時代のハンナの罪が裁判にかけられている
法律を学ぶ学生になっていた少年は
偶然居合わせた傍聴席でハンナが非識字者だったことに気付く
私たちはそのシーンで ハンナがあの時昇進をけった理由が分かる

よく出来た映画

「タイタニック」は観ない派だけど
ケイト・ウィンスレットは好きだわ〜
切実な目が好き♡今回のしなびれかけた美しさも素晴らしかった

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mamagamasako

3.0TSUTAYAのお薦めで鑑賞

2021年1月14日
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鑑賞方法:DVD/BD

鑑賞後、しばらく感想が出てこなかった。
正直好みの作品だったか否かすらわからない。ケイト・ウィンスレットも「タイタニック」や「エターナル・サンシャイン」の頃とずいぶん印象が違い、今更ながら時の流れを感じた。
ただ映像美と少年時代のマイケルの葛藤は印象深く、評価された作品の格を感じた。
そして、20年前に観た「マレーナ」を思い出した。

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いけい

5.0すごく好みな内容です。 言葉で表現せず、気持ちを演技・演出で表して...

2020年12月9日
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すごく好みな内容です。
言葉で表現せず、気持ちを演技・演出で表してます。
物語の終わり方とてもいいです。

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マグー
PR U-NEXTで本編を観る