「「チャタレイ夫人」がわいせつ?お前が言うな」愛を読むひと kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
「チャタレイ夫人」がわいせつ?お前が言うな
高校時代の授業で西欧文学の特徴である“秘密性”が講義される。主人公の秘密を読者に知らせないで想像力をかき立てる手法らしいが、この作品自体もハンナの非識字者であることを秘密に・・・ではあるけど、かなり序盤に予測できてしまうストーリーの弱さはあった。法科学生の実習でマイケルが気づいたように描かれるものの、二人で旅した時に気づかなければおかしい。しかし、恋は盲目。気づきながらマイケルは心の奥に閉まったままにしておいたのだと想像してしまいます。
マイケルとハンナの蜜月時に電車に乗ったことを怒ったハンナだったが「誰にも謝る必要なんてない」などと言ったことも興味深い。とにかく秘密の多い女性というイメージを持ったままハンナはいなくなってしまう。そして再会したのはマイケルが法科学生となった8年後のこと。
公判でも罪を認めたが謝罪はなかったハンナ。爆撃により火災が起きた教会の鍵を開かなかった罪が問われたのだ。「社会を動かしているのは“道徳”じゃなく“法”だ」と講義する法科のロール教授(ブルーノ・ガンツ)。道徳的にはユダヤ人を助けるべきだが、SSに所属し看守を務めていたハンナにとっては鍵を開けないことが秩序を守る唯一の道だったのだ。
6人の女性看守の内、ハンナには責任者だったとして唯一人重い無期懲役の判決が下され、仮釈放されるまで20年服役。刑務所内では学ぶことなどない!と主張する生き残りのユダヤ人マーター。ではハンナは何を為したのか・・・マイケルが送っていた朗読テープによって独学で読み書きを学んだ。それが贖罪になるのかどうかはハンナにとってもマイケルにとっても判断に迷うところ。マイケルの人生を変えてしまった事実についてもマーターは問う。
ホロコースト、特にアウシュビッツにおける大量虐殺については触れないが、法を教えるブルーノ・ガンツが『ヒトラー~最期の12日間』(2004)でヒトラー役を演じていたことも興味深い。最近の戦争犯罪を扱う映画なんて、上からの命令には逆らえないというテーマ一辺倒であるため、文盲であることを隠すプライドにより刑罰を受けるというユニーク性もあった。その事実に気づきながら公判に対して何もできなかったマイケルには賛否両論あろうけど、美しき初恋・初体験の思い出を引き出しに閉じたかっただけなのかもしれません。
もう一つ興味深いのは何度も繰り返し朗読されたホメロスの「オデュッセイア」。テーマは帰郷homecomingだ。故郷を夢見て旅する物語の一節が何度も登場するが、緋識字者であることも併せてハンナが故郷を持たないロマ人だったことが窺える。ユダヤ人と同じように差別を受けていた民族。被差別の側として生き残るためにはSSに入隊するしか道がなかったのとも読み取れる。そんな故郷を持たない彼女はマイケルが迎えに来てくれても自分の居場所がないことを悟ったのだろうか。自殺の真の理由は色々と想像できますが、それよりもマイケルへの感謝の気持ちに溢れていたことが泣ける。3回目の鑑賞となりましたが、やっぱり泣ける。
kossyさん
さすが”3回鑑賞“なさったゆえに発見なさった真実のレビューですね。
ハンナの清らかさが、深く地下水脈から湧いてきたように感ぜられ、読ませて頂いていて僕も慰められました。
ユダヤ人には魂のふるさとエルサレムがあったけれど、ロマにはそれがなかった事にも今さらながら気づきました。
邦題は「愛を読むひと」でしたね。
“文盲”のハンナに本を読んでやっていたマイケルは、やっと彼女の生き様を読み取ることが出来たんだろう・・
字を読めなかったのはどっちだったのか!というお話。
3回も鑑賞なんてkossyさん勇気ありますね。衝撃が強すぎて僕は1回でへし折れましたから。
僕もね、人の心が読めないダメ男なんですよ。
kossyさん、ハンナのマイケルへの感謝の気持ち、そうですね。私はマイケルをどうしてもこのインテリ馬鹿野郎!と思ってしまうんですが、kossyさんの両者への優しい眼差しに心が少し溶けました。