「【苦悩と葛藤の先/年上の女性と年下の男性の恋愛②】」愛を読むひと ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【苦悩と葛藤の先/年上の女性と年下の男性の恋愛②】
この作品は、想像力を要所要所で広げる必要があるなと思う。
実は「人のセックスを笑うな」を久々に観て、ふと、年上の女性と年下の男性の恋愛の映画を観直してみようと思った。
「甘いお酒でうがい」と「私の知らないわたしの素顔」は既にレビューを書いているので、いろいろ調べて、今、僕がサブスクで観ること出来て、当時鑑賞して好きだったものをチョイスしてみようと思った。
まずは、多くの人がおそらく外すことがないであろう「愛を読むひと」だ。
この物語はとても悲しい。
だが、僕はどこか、僕たちの世界に向けた希望を提示しているようにも思えるのだ。
構成の各パートのギャップの大きさ、そして、この作品に用意された結末が、マイケルやハンナは本当はどうすべきだったのか、実は、答えのない問いを僕たちに投げかけているように感じられる。
答えのない問いとは、僕たちの未来に向けたメッセージだと思う。
(以下ネタバレ)
この作品は、大きく三つのパートから構成されている。
実は、この構成は、単なる物語の展開だけではなく、問いかけを考えるうえでも重要な役割を果たしているように思える。
一つめは、マイケルとハンナの出会いだ。
マイケルが20歳近く年上の女性ハンナと出会い、恋に落ち、逢瀬を重ねる。
若い男性が年上の女性と恋に落ちる際は、多くがセックスへの興味であることは間違いないように思う。
しかし、朗読を通じた心の交流が次第に深まる。
次のパートは、ハンナがユダヤ人虐殺にどう関与したかの裁の場面だ。
最初のパートでうすうす感じていたことだが、ハンナは字が読めない。当然書くことも出来ない。
それは裁判では触れられず(”ハンナも口を閉ざし”)、SSという仕事を選ばざるを得なかった理由も明らかにならないまま、他被告人の罪のなすりつけもあり、ハンナの罪はより重くなってしまう。
ハンナはなぜ本当のこと言わなかったのか。
教授に促されたのに、なぜマイケルは証言しようとしなかったのか。
なぜ、人間が培ってきた法律という知恵が働く機会を失ってしまったのか。
そして、最後のパートは、収監されたハンナとマイケルの朗読を通した心の交流だ。
結婚し、娘をもうけたものの離婚したマイケル。
証言できなかったという自分の罪の意識と向き合っていたのだ。
意図していたわけではないが、多くのユダヤ人を死に追いやってしまったことを許すことが出来なかったのか。
彼女を愛していたから、それを公に出来なかったから証言しなかったのではないのか。
献身的ともいえるマイケルの膨大な朗読テープの作成。
テープを手掛かりに、字を学び、曲がりなりにも読み書きが出来るようになったハンナ。
20年の収監の後、釈放の機会を得たハンナ。
長い年月を経て再開したハンナとマイケル。
20年で何を得たかハンナに問うマイケル。
字を書けるようになったと答えるハンナ。
おそらく、マイケルは、罪とどう向き合ったのか聞きたかったに違いない。
だが、ハンナは、読み書きが出来なかったと自分の”最も重大な秘密”をマイケルに打ち明けたつもりだったのではないのか。
釈放を前にしたハンナの自死。
ハンナは、裁判で読み書きが出来なかったことを隠したように、マイケルに罪と向き合っていたことも話してはいなかった。
それは、罪はマイケルに対してではなく、亡くなったユダヤ人や家族に対して向き合っていたからではないのか。
ハンナは読み書きを学び、本さへも読めるようになる過程で、罪と向き合うだけに止まらず、罪とどのように向き合うべきなのか自分なりに考えるようにもなっていたのだ。
だから、釈放されるつもりはなかったのだ。
だから、遺族に少しでもとお金を貯めていたのだ。
ハンナの死で、マイケルは様々なことを理解したのではないのか。
年上の女性と年下の男性の恋愛映画というカテゴリーで観たけれども、それ以上に考えさせられる映画だった。
感情移入をメインに”自分だったら”という括りでは計り知れない気持ちの揺らぎが感じられると思う。
そして、より良い判断を重ねるために、教育がいかに重要なのかも問いかけていると思う。
だから、遺族の女性は、ハンナを理解し、ハンナがお金を貯めておいた缶を手元に置いておくことにしたのだ。
世界の中には、女性に教育は必要はないという宗教や民族がある。
中国のように一部の民族を弾圧し、思想教育をしている国家もある。
アメリカのような民主主義国家でも、白人至上主義的な家父長主義(パターナリズム)の色濃い地域では、女性の地位が低いままだったりもする。
日本でも同様なことは多い。
この作品は、文盲を背景にし、読み書きが出来ないことで起こった悲劇と、その中で苦悩・葛藤する男女の姿を表していると思うが、今、世界ではコロナ禍でもワクチン接種も含めて、平等とは何か、より良い判断を重ねることの重要性などが問われていると思う。
民主主義の重要性の理解や、より良い未来を思い描けるように、教育が重要だということも暗示しているように思える作品だった。
最後、マイケルがハンナのお墓の前で娘に話すストーリーは、きっと未来や希望につながるもののはずだ。