愛を読むひと : インタビュー
ニコール・キッドマンにアカデミー主演女優賞をもたらした「めぐりあう時間たち」に続いて、「愛を読むひと」でもケイト・ウィンスレットにアカデミー主演女優賞をもたらしたスティーブン・ダルドリー監督&脚本デビッド・ヘア。アカデミー賞の常連となった名コンビに、本作を製作するに至った経緯や脚色にあたっての工夫などを聞いた。(取材・文:森山京子)
スティーブン・ダルドリー監督 インタビュー
「戦争が次の世代にどんな影響を与えたかというのが本作のテーマだ」
──原作のどんなところに興味を持ったのでしょうか?
「ラブストーリーであると同時に戦後のドイツを描いている点だ。実際に戦争を戦った世代ではなく、戦争が次の世代にどんな影響を与えたかというのがテーマだからね。僕個人としてもとても興味があるテーマだ」
──ハンナとマイケルの愛も、年齢差だけでなく、戦争の影響でとても特殊なものになっていますよね。
「マイケルはかつて自分が愛したハンナが戦犯であることに衝撃を受けるが、彼女を切り捨てることができない。かといって声を大にして彼女を救うことにもためらいがあった。そのことで罪悪感に影のように覆われて生きていくんだ。身近な人との間にこういう体験をしたのが、作者のシュリンクの世代なんだ」
──ドイツ人の話なのに英語映画になったのはどうしてなのでしょう。
「英語で製作するのはシュリンクの希望だった。それにこのテーマはドイツに限ったことではなく、他の国の文化にも共鳴する普遍的なものだから、英語でいいと思った」
──にも関わらず、出演者はドイツ語訛りになっていますね。
「それはデビッド・クロスのアクセントにみんなが合わせた結果だ。全員同じアクセントに統一したかっただけ。イギリス人がデビッドに合わせるほうが簡単だからね」
──最初アンソニー・ミンゲラが監督することになっていましたが、彼から作品のビジョンを受け継いだのでしょうか?
「ノー。アンソニー自身が映像作家だから、他の監督に自分のビジョンを押しつけることが最悪だということを知っている。僕が望む映画を作ることを可能にしてくれた最高のプロデューサーだったよ」
脚本デビッド・ヘア インタビュー
「これは、ある出来事がマイケルに及ぼした影響についての物語だ」
──この作品を手がけることになった経緯を教えてください。
「8年前に原作を読んですぐに、映画化権を持っていたアンソニー・ミンゲラに、やらせてくれと頼んだ。でも自分で脚本・監督するつもりだからと断られてしまってね。結局彼は忙しすぎて映画化に着手出来なかった。それで、スティーブン・ダルドリーと僕にチャンスが回ってきたというわけなんだ」
──舞台化は考えなかったのですか?
「舞台にするには難しすぎる。時の流れが人の思考に与える影響を描くんだから、舞台より映画の方がずっとやりやすいんだ」
──物語の時間が行ったり来たりする構造は、あなたとダルドリー監督の前作「めぐりあう時間たち」と同じですね。
「これは、ある出来事についての話ではなく、ある出来事がマイケルに及ぼした影響についての物語だ。過去に起きた大きな経験に影響されて、マイケルは本当の意味で生きることができなかった。その影響の深刻さを提示するために、時間を行きつ戻りつして経過を見せて行くことにしたんだ」
──裁判のシーンは、どのように作りあげたのでしょうか?
「ドイツの司法制度は英語圏とは違うから随分リサーチしたよ。それから、当時の資料を調べて、実際に行われた裁判を完全に忠実に再現した。あの部屋にいた人たちは当時の裁判に出席していた人たちなんだ。その人たちがエキストラとして演技していたんだよ。裁判官たちは、退職したドイツ最高裁の元判事たちだしね。スティーブンは、出来る限り現実に近づけることを要求する監督なんだ」