「観賞後の余韻は30分で消え、鑑賞翌日には観た事も忘れていたという珍しい作品。」アバター(2009) kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
観賞後の余韻は30分で消え、鑑賞翌日には観た事も忘れていたという珍しい作品。
2010年元日の夕方に渋東シネタワー(現在の“TOHOシネマズ 渋谷”)にて、2D鑑賞。
『タイタニック』で興行成績の記録を塗り替え、賞レースを制し、“巨匠”と呼ばれるほどの功績を残したジェームズ・キャメロン監督。その後はテレビドラマ『ダーク・エンジェル』を製作したり、深海ドキュメンタリー映画を手掛けたりと表舞台から遠ざかっていた彼が12年ぶり(当時)に劇場用映画の新作を放ったというのは、『ターミネーター1&2』をキッカケに映画好きになった自分にとって、興味を持たずにいられない事で、その『アヴァター』は、その頃の自分にとっては、かなりの期待度の高さで劇場へ足を運んだほど、楽しみな一作となりました。
時は西暦2154年。死んだ兄に代わり、衛星パンドラでの任務に就くことになった海兵隊員のジェイク(サム・ワージントン)は、その地に住む原住民“ナヴィ族”と接触するために、ナヴィ族と人間の遺伝子を融合した生物に自身の意識を移して操る“アヴァター計画”に参加し、計画責任者のグレイス(シガニー・ウィーヴァー)と共にパンドラの地上に降り立ち、そこで予想外な経験をしていく事になる(粗筋はここまでです)。
12年のブランクは感じさせず、モーション・キャプチャーを駆使した映像と実写を違和感無く溶け込ませ、新たな映像革新に挑み、タフな女性をヒロインに据えて、企業やテクノロジーを脅威として描きながら、地球温暖化やアメリカの侵略の歴史を批判するといったキャメロン監督らしさは満載で、2時間40分以上の長尺を飽きずに観られる事は良かったと思います。しかし、キャメロン監督が年を取って、創造力が衰え始めたのかどうかは分かりませんが、残念ながら、後には何も残らず、鑑賞終了から僅か30分で余韻が消え、鑑賞翌日には観た事を忘れているという珍しい作品でもありました。
キャメロン監督は『ターミネーター2』のソフトに収録されたドキュメンタリーのなかで「美しい映像を見て、観客が驚かなくなったら、それは“人間味を失うな”という製作者への警告を意味している」とコメントしていた事があります。このドキュメンタリーが収録されたのは2003年頃で、ちょうど、大作でCGを駆使した映像が当たり前となり、それに驚く事が少なくなり始めた時のものですが、本作を観て、そのコメントが私の脳裏を過り、もし、このドキュメンタリーをキャメロン監督本人が見たら、何を思うのかと興味を持ちました。本作は映像が全てで、その映像も本編が始まってから45分が経過する頃には見慣れてしまい、そこで驚ける事は無く、終盤の戦いでは『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』や『同 エピソード3/シスの復讐』で観たことあるシーンの焼き直し、他にも色々なファンタジー映画で既にやっている事の亜流な再現など、アイディアの枯渇(アヴァターを操る装置が日焼けサロンのマシーンにしか見えないのは如何なものか。“マトリックス”のプラグの接続一つで仮想現実へ行けてしまうようなシンプルかつ斬新さが、あまりにも無さすぎます)を感じさせるところがあり、それが多すぎてウンザリしました。
登場人物に魅力は無く、キャメロン監督の過去作の主人公ならば絶対に有り得ない“足の不自由な主人公”が“アヴァターを操作する事で現実逃避に走り、それが最後まで続き、全く成長を見せない点には呆れてしまい、「こんな魅力のない主人公をキャメロンは描きたかったの?」と疑問を持つことしか出来ず、共感をしなければ、心に響く行動や台詞も無いので、物足りなさしか感じず、多少はカッコいいキャラが居ても、それはキャメロン印を忘れさせないようにするために、急遽、付け足されたような存在に過ぎず、今までの主人公が何か(人類の命運や夫婦・家族の絆の維持と再生、極限の状態まで追い詰められても生き延びようとする)に病的なぐらい執着してきたのとは違い、「自由に動き回りたい」事を除けば、何のポリシーや情熱を持たないので、キャメロン作品で最もロクでもない人物だとしか思えません。
本作のマイナスな部分は多いですが、今までのキャメロン作品にあった特徴的なカメラワークが殆ど無かったのも、その一つでしょう。『ターミネーター』では負傷した腕を“ターミネーター”が自ら修復するシーンで手術器具から、腕の内部までを徹底的に見せ、『タイタニック』では一等船室の夕食会に招かれたディカプリオ扮するジャックがナイフやフォークの使い方が分からず、戸惑う時に、それらを一瞬、さりげなく映して、彼の戸惑いを分かりやすく見せたといったのが本作ではなく、普通のカメラワークで、他の監督が撮っていても変わらないように見え、「キャメロン監督だから」という特別な感じも味わえず、物足りなさが残ります。
現在、キャメロン監督は本作の続編を準備し、“三作同時撮影”とか“フレームレートを上げて撮影する”といった事に挑戦するようですが、そこには何も期待できません。本作はキャメロン監督のネームバリューと3D上映の謳い文句が無ければ、そこまでヒットはしなかったでしょうし、『タイタニック』で一つの到達を果たしたのだから、本作のような作品ではなく、もう一度、低予算か大作でも実写がメインの作品に挑んで原点回帰をするべきなのではと思います(“ターミネーター”のドキュメンタリーで彼は“低予算-ゲリラ-映画は自分の信念に基づいて作ることが出来るから、魅力がある”とコメントしているので)。本作は公開前に流れていた4分間の予告編が全てで、それ以上のモノがありません。自分の期待値が高すぎたので、観たことも忘れるぐらい、つまらなかった事は衝撃的でしたが、もうキャメロン監督のピークが過ぎたという事で、この内容も仕方がないのだと思っています。