ファンタスティック Mr. Fox : 映画評論・批評
2011年3月17日更新
2011年3月19日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー
人類の誕生から未来まで、果てしないスケールの時間が詰まっている
監督のウェス・アンダーソンと本作の主演ミスター・フォックスとが握手している写真を見た。もちろんフォックス氏とは撮影に使われた狐の人形で、そのサイズも監督の肘から先くらいしかないのだが、見ていると何だかそのままふたりが話し始めそうな気分に襲われる。人形がリアルだから、ということではない。理由はただひとつ。この映画を見たから。
原作は「チャーリーとチョコレート工場」のロアルド・ダール。泥棒狐のフォックス氏の物語だが、動物たちの物語ということではなく、あくまでも人間社会を動物社会に置き換えて描かれた寓話である。「置き換え」というより「一体化」と言った方がいいかもしれない。「作り物」と「生身」の融合が、そこでは起こっているのだ。
例えば「トイ・ストーリー3」や「アバター」のCGの奇妙な生々しさを思い出してもいい。実写の映画よりCGで描かれたモノたちの動きと表情に、忘れかけていた親密さを覚えなかっただろうか? ペットを見るような親密さではない。私たちがかつてそうであったものが不意に未来世界からこちらに向かって何かを語りかけてくるような、そんな根源的でもある未来からの懐かしい呼びかけが、そこにはあったように思う。単なる狐が主人公の人形アニメーションではあるが、そこには人類の誕生から未来まで、果てしないスケールの時間が詰まっている。
(樋口泰人)