「最低なろくでなしの中にある譲れない高潔さ」ゼア・ウィル・ビー・ブラッド 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
最低なろくでなしの中にある譲れない高潔さ
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ひとりの偏屈男の精神的な破滅を異様な迫力で描いた人間ドラマだが、同時に滑稽で笑えるところも、極めてろくでなしな主人公に共感できる部分もある。ダニエル・デイ・ルイスが演じたダニエル・プレインビューという一介の山師から石油王に成り上がる人物に、およそ一般人が好ましいと思う要素はなく、本人も他人との触れ合いを拒絶するような人間ではあるのだが、苛烈な生き方を貫くのはある意味でアッパレだし、心を閉ざしているのは他人に心を許すのが恐ろしいからというのはなんとなく伝わってくる。その敵意が向けられるのはポール・ダノが扮するいささか大仰な宣教師で、プレインビューにはその偽善にムカついてしょうがない。ニセモノの優しさ、うさんくさい連帯、うわべだけの美徳、そういうものを全否定するあまり、自分だけしか信じられなくなった男がたどる悲劇。とはいえ彼がたどり着く先は自業自得で同情の余地はなく、それでも哀れみと可笑しみを誘う映画になっていることが素晴らしい。映像的な凄みは一旦脇に置くが、長大な原作から一部の要素だけ抜き足て、まったく違うひとりの男の物語を生み出したポール・トーマス・アンダーソンの想像力と創造力が圧巻。もちろんダニエル・デイ・ルイスの孤高の佇まいも。もはや原作とは別物だけど。
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