ゼア・ウィル・ビー・ブラッド : インタビュー
ダニエル・デイ=ルイス インタビュー
「新しい役柄を演じるときは、いつもゼロからのスタートになる」
――非常に難しそうな役柄でしたが、これまでに演じたキャラクターと比較していかがでしたか?
「うーん。いま思い起こしてみても、それまでに演じた役柄よりも苦労したとか、楽にこなせたとかいう記憶がないんだ。そもそも、役柄同士を比較するのは難しいしね。どんなキャラクターを演じるにせよ、ぼくの役者としての目的は常に同じなんだ。架空のキャラクターのなかに命を見いだし、自分が頭のなかに作り出した幻想を、体外に投影する、という。あとは、周囲の人が、ぼくをそのキャラクターだと信じてくれることを祈るしかない。
ただ、目標はいつも同じだけれど、そこに到達するための過程はキャラクターごとに異なる。だから、新しい役柄を演じるときは、いつもゼロからのスタートになる。赤子同様の状態で、不安でいっぱいになりながら、少しずつキャラクターを積み上げていくんだよ」
――ダニエル・プレインビューとあなたとの間になにか共通点はありますか?
「仕事がある場所に出向いていくから、常に放浪生活を強いられるという点は似ているね。キャラクターを演じるという作業も、ある意味において、石油採掘に近い。暗い部分に身を投じなくてはいけないし、努力が必ずしも報われるというわけではない。でも、そこには抵抗しがたいほどの魅力が眠っているんだよ」
――プレインビューは堕落への道を進むことになりますが、それは金と権力を手にしたからだと思いますか?
「どうだろうね。ただ、金と権力を手にすること自体は、関係ないんじゃないのかな。問題は、手にした力を乱用することであって。プレインビューは権力を得るために、少しずつ犠牲を払っていく。そして、いったん売り払ってしまった魂は、もう取り戻すことができないことに、あとになって気づくんだ。どんどん感覚が鈍くなって、いつしか、他人だけでなく、自分自身をも裏切ることになるんだよ」
――アンダーソン監督は俳優にとても人気がありますが、あなたから見て、最大の魅力はなんですか?
「ポールは、他の優れた映画監督と同様に、役者にとって必要不可欠なものが何であるか理解している。ぼくらが求めているのは、自由に模索できる労働環境なんだ。こう言うとすごく簡単なことのように思えるかもしれないけれど、映画監督のなかに、それを提供できる人は非常に少ない。製作費やスケジュールが決まっている映画製作のなかで、ぼくら役者は混沌のなかをさまよう自由を求めているわけだからね。でも、ポールはぼくらにその機会を提供してくれるんだよ」