風の外側 : 映画評論・批評
2007年12月11日更新
2007年12月22日より新宿K's cinemaほかにてロードショー
オリジナル脚本で勝負、娘まで脱がせる奥田監督の心意気を買う
奇妙な符合にフフフと笑った。父・奥田瑛二が監督で、二女・安藤サクラが主演。そしてマスカーニ作曲の「カバレリア・ルスティカーナ」が劇中に使われる。そう、これは「ゴッドファーザーPART III」の如き、ファミリームービーなのだ。ついでに書くと、奥田は父役で、妻・安藤和津は学園の院長役で出演。長女・安藤桃子は助監督を務めている。
思えば、イタリア系のコルレオーネ家もアメリカではマイノリティだが、奥田監督が家族でこしらえた物語は、山口県下関市の在日韓国人二世と三世の「勝ち組」「負け組」を対比させて描く。オペラ歌手になる「夢」を持つ女子高生と「夢」が邪魔になるヤクザの鉄砲玉の悲痛な純愛ストーリーだ。
サクラはオペラの歌唱法に果敢に挑戦していて好感が持てるが、チンピラ役佐々木崇雄に「殺気」が感じられないのが惜しい。「冬の華」のようなヤクザ映画なら、ラストにカタルシス(健サンの殴り込み!)があるものだが、本作では敢えて大団円を用意せず、爽やかな青春映画路線を生真面目に狙ったふうだ。関門海峡に吹きわたる風がほのかに感じられるラストのシークエンスが実に心地いい。
全編のセリフが深く心に突き刺さる。昨今の日本映画では小説や漫画の原作に頼り切りだが、オリジナル脚本で勝負し、実の娘まで「脱がせる」奥田監督の心意気を買いたい。
(サトウムツオ)