「こころがいかに錆びついているのか思い知らせる作品です」テラビシアにかける橋 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
こころがいかに錆びついているのか思い知らせる作品です
一応ファンタジー映画なのですが、それを目打てに行った人はガッカリするかもしれません。現実の世界と空想の世界が混在していて、あくまで現実の世界が主体の話しだからです。
主人公の少年ジェスは、学校ではいじめられっ子であり、家庭では心を閉ざしてしまい、父親ともうまくコミュニケーションが取れません。どこかの古い王国の勇者の物語でなく、至ってどこでもいそうな普通の少年が主人公です。
昔いじめられたり、悲しい子供時代を過ごしたことがある人なら、凄く感情移入できるでしょう。
孤独なジェスに救いとなるのが、転校してきたレスリーでした。並外れた空想力を生み出すクールで大きい目がとても印象的で、しかも男の子と競争しても勝てる俊足ぶり。心を閉ざしたジェスでも、チャーミングなレスリーに惹かれていったのです。
2人はだんだん意気投合して森の中に2人だけの秘密基地を作ります。そしてレスリーの空想はだんだん膨らんで、その場所は、心の中で念ずれば全てが現実となる「テラビシア」という王国となったのです。
王国建国後は、レスリーのイメージが進むほど、空想が現実に取って代わることがけ多くなり、モンスターの襲撃シーンが増えてファンタージー映画っぽくなりました。ただ、どんなに頑張っても、それがレスリーの空想であることが解っているとどうしてもシラけるのですね。その辺が大人になることの悲しさで、純粋に空想を楽しめきれず、本筋の現実社会での二人の視点で、見てしまいます。その辺の感性が、この作品の評価の分かれ目でしょうね。
二人の学校生活は、相変わらず問題続きでした。でも二人にとって「テラビシア」とは空想の世界に逃げ込むところでなく、心の奥深くを見つめることで心の力を解き放ち、無限となって、現実世界へ生きる活力を還元していくところのように見えました。
皆さんにも、どこかホッとなれる場所や童心に戻れるスポットがあるはずです。「テラビシア」とはそんな場所なんですね。(じゃあ、キャバクラが「テラビシア」だって(@_@)、ハハハッ~)
この作品は皆さんの感性、心の力を問うています。
心の力は、現実にあり皆さんの運命を左右する大きな力を持っています。けれども大人になる中で、現実に敗北させられて、誰も心の力なんぞ信じなくなっています。
ラストの素晴らしいイマジネーションに触れるとき、こんなことまでイメージできるなんて素敵だと思いませんでしたか?いかに心が現実にあって酸化して、錆びついているのか思い知らせることでしょう。
「テラビシア」は皆さんのこころの中にあります。レスナーと一緒に「テラビシア」をイメージできたら、それは皆さんの現実の逆境を跳ね返す心の力となります。
そして子供が見れば、いじめに会ってもこうすれば元気で頑張れるきっかけになることでしょう。でしょう。
●ここから相当にネタバレ編
「テラビシア」と現実世界の間には小川が流れていました。二人はこの間をロープで渡っていたのです。
段々、小川の水かさが増した頃、一人で渡っていたレスナーは死んでしまいます。悲しみに暮れるジェス。思わず妹に八つ当たりしてしまいます。
このときのジェスの父親の言葉が印象的でした。
「彼女に何かを貰ったろう・・それを大事にしまっておけ・・そうすれば彼女は生き続ける」
大切な人との別離。それは一時の絶望に陥ります。もう二度と会えません。けれども、何かのきっかけで、心の力を呼び起こせば「永遠」を思い出せるものではないかと思います。ジェスもそれを見つけて、行動を起こします。
「この橋を渡れば、またきみに会える」というコピーは、ある意味この作品の全てを語っています。
ジェスの作った橋は、単に妹との仲直りの為だけでなく、この現実の岸と彼岸の永遠の世界を繋ぐ架け橋であったのです。
きっとジェスは「テラビシア」に来るたび、レスナーと出会い、心の力を取り戻して、素晴らしい絵を描く、画家に育っていくことでしょう。