「ビルマの荒事。 『ランボー』シリーズ20年ぶりの新作にして、「暴力」の真髄を描き出す異色作。」ランボー 最後の戦場 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
ビルマの荒事。 『ランボー』シリーズ20年ぶりの新作にして、「暴力」の真髄を描き出す異色作。
戦争アクション映画『ランボー』シリーズの第4作。
誘拐された人道支援団体のメンバーを救い出すため、ランボーはミャンマー軍に戦いを挑む。
○キャスト
ジョン・ランボー…シルベスター・スタローン(兼監督/脚本)。
ジョン・ランボー、20年ぶりのカムバック。
ランボーもおそらく還暦。とはいえ彼が赤いちゃんちゃんこを着てのんびり余生を過ごしている訳はなく、本作でも相変わらずの死神っぷりで戦場を血に染めていく。
今回の戦場はミャンマー。
「地球上で最も報告されず、生々しく衝撃的な人権侵害は何か」を探していたスタローンがたどり着いた答えがミャンマーで行われている少数民族の弾圧だった。
軍事政権による圧政やアウンサンスーチーさんの長期に渡る投獄など、日本ではそれなりに報道されているミャンマーの惨状だが、アメリカではほとんど知られていないらしい。
この悪夢のような現状を世界中の人々に知ってもらうため、スタローン自らが先頭に立って本作を制作。
『怒りの脱出』『怒りのアフガン』で確立した大味アクション映画という殻を脱ぎ捨て、『1』の路線を進化させたかのようなタフでハードな戦争映画へとシリーズの舵を切った。
本作で繰り広げられるのは、目を覆いたくなるような残虐で凄惨な「暴力」。あの『プライベート・ライアン』の冒頭部を思い出させる、情け容赦ない虐殺が90分にわたり繰り広げられる。
人がただの肉塊になる様を、敵味方関係なく描き続ける。そこにはヒロイズムもエモーションも介在しておらず、ただシステマイズされた戦争/虐殺/暴力があるだけである。
この映画が制作された当時で60年、2023年現在では70年以上、血が流れ続けているミャンマーという地域。システムとしての暴力が常駐すると、それに伴うはずの痛みや怨嗟といった感情すら剥ぎ取られ、ただただ死体を積み上げるという作業へと変化する。
異常なまでに暴力的であるにも拘らず、どこか淡々とした印象を受けるこの映画は、このような暴力の本質を鋭く見抜いているからこそなのだろう。
観ていて気持ちの良いものでは決してないのだが、戦争や暴力について深く考えさせてくれる、非常に価値のある映画であると思う。
犬による山狩りは『1』、捕虜を救い出すという展開は『怒りの脱出』、クライマックスでのゲリラ兵との合流は『怒りのアフガン』と、これまでの全シリーズ作品を踏襲している総決算的な本作。
しかしそれらの過去要素がただの懐古趣味に落ち着くことなく物語に組み込まれているし、何より映画全体のルックが現代的にブラッシュアップされている。
そして何より驚かされるのは、これまでのシリーズを集合させたような作品であるにも拘らず、ランタイムが過去最短の91分であるというところ。
後ろに行くに従ってダラダラダラダラと上映時間が伸びるというのはシリーズ映画にありがちなことだが、ここに来てこれほどタイトに纏め上げるとは…。スタローンの監督としての技量の凄さを感じずにはいられない。
世界を流離ったランボーが、本作でついに故郷へと帰る。
シリーズ4作品を通して綺麗なオデッセイになっているものの、何故今回ランボーが家へ帰ろうと思い至ったのか、その理由がイマイチ伝わってこないというのは少々気になるところではある。
「キリング・マシーン=あるがままの自分を受け入れることができたから」ということなんだろうけど、それと家へ帰るという行為の関連性は薄い気がする。
まぁ25年以上も苦しんできたランボーへのご褒美みたいなものだと思えば気にもならないけどね。
前作から知能指数が100くらい上がったこの映画。
ドラスティックに描かれる暴力、平和ボケした人間への叱咤、何のために生きるのかを問いかけるメッセージ性、どれを取っても強烈な印象を残す作品でした。
これで長きに渡るランボーの戦いも幕を閉じた。…かと思いきや、もうちっとだけ続くんじゃ。
こういうことがあるから、邦題に「最後」とか安易につけない方が良いのである。