「ヒーローなんていない」ミスト alalaさんの映画レビュー(感想・評価)
ヒーローなんていない
ずーっと「霧の中に潜む化け物」「ラストが賛否両論の有名作品」程度の知識しかないまま、いずれ見よう見ようと思ったまま見ずにいた作品。地上波でやっていたので鑑賞。
一見よくあるモンスターパニックもの。でも一味違う。分類は多分ホラー。むっっっっちゃくちゃ虫が大量に出てくるので、虫嫌いな人は要注意。ちょっと出るどころじゃありません。むしろ虫が主役。
あらすじ:
大きな嵐によって、家を破壊されてしまったデヴィッドは、妻に家の片づけを任せ、息子と、同じく嵐で車を失った隣人ノートンと共に町へ買い物に行くため車を出す。スーパーで買い物をしていると、錯乱状態の男がスーパーへ駆け込んできて「霧の中に化け物がいる」と言う。どんどん霧が濃くなっていく中、最初はみな半信半疑だったが、外に出た従業員が殺され、化け物の姿を見たことでデヴィッドはその存在を信じ、有能な弁護士であるノートンを頼ろうとする。以前から確執があったものの、お互い少しは歩み寄れた気がしていた2人だったが、ノートンはデヴィットの説得を撥ね付け、必死に止めるデヴィッドを振り切り店から出て行ってしまう。次々と人が減り、化け物の存在を皆が信じ始めるが…
いやはや、パニック映画あるあるだと思うんですが、登場人物の意味不明な動きが多くて気になります。ストーリー展開のためのつじつま合わせなのが透けて見えるというか。ナゼ今???ナゼそれを????と思うところが結構あって、序盤は割と白けてきました。非常事態ってそんなもんなのかなぁ。
そして、ほぼ全ての視聴者が「ウゼー!」と思ったであろう狂信者。まぁ良く言えば「敬虔な信者」なんでしょうが、多分ほとんどの日本人には「ただのうるせー馬鹿」にしか見えない。でも絶対間違ってるとも言えないし(化け物出てくる世界線だからね)。
で、段々それに洗脳されてく人々。何やこいつら…と思うと同時に、アメリカだったら現実にありそうだなーとか、日本でも似たようなことは起こるんだろうなーとか、色々考えてしまいました。日本人って割と宗教のこと馬鹿にしてる人多いですが、「科学的に~」と言われて(説明は理解できてないのに)すぐ信じる人は多いですよね。
2007年の作品ですが、14年前のアメリカで既に狂信者を揶揄しているんですね。で、未だアメリカ人の4割はこういう狂信者であると言われていて、政治家も実はほとんどが「神の仰せの通りに」という感じだとか。共和党と民主党しか名前聞かないなーと思ったらそういうこと…びっくりです。日本は宗教が平然と政治に介入してて、もっとびっくりですけど。
この狂信者、別に宗教の信者でなくても似たようなことは起こり得て、誰かが大きな声で意見を言ってリーダーになり、それについてく人達と反対する人達とができる、というのは日常でもちょくちょく起きてますね。男VS女・白人VS黒人・国民VS移民・民主党VS共和党…みたいな形で白熱して、そのうち本来の問題そっちのけで争い始めるという、客観的に見ると凄く間抜けな状況が本作でも起きています。
化け物相手にどう抗うかという話をすべき時に、主人公目線だと神ガー!がいちいち宗教絡めて行動を邪魔してくる。神ガー!目線では、神に従えば救われるのに、主人公達がわざと自分達を道連れに自滅しようとしている!となっていて、結局外部の敵への恐怖を内部でぶつけ合い、案の定殺し合いに発展します。
最初に出てった母親も、8歳の子ともっと小さい子を家に残したまますぐ戻ると言って出てきてしまったから帰りたい、誰かついてきてほしいと言い出し、状況がわからないから誰も名乗り出ないと「全員地獄に落ちろ!」。いや逆ギレすげーわww
アメリカは子供だけで留守番させるのは法律違反で、例え5、6分だろうと、ちょっと向かいのコンビニだろうと、捕まります。なので、子供に何かあったら完全に自分の責任(まぁ言うても数分のために子供をいちいち連れ出すのがツラい気持ちはわかるが…)。
後半で狂信者が「神への生贄に子供をよこせ」と主人公の息子を殺そうとしますが、視聴者は恐らくこの時「おいおいガキに手を出すようになったら人として終わりだろ」と考えるだろう…ことを見越して「序盤の母子のことは見捨てただろ!」と言いたいのかもしれませんが、序盤のママはね、一人で来たんだから一人で帰れとしか。状況わからん所に飛び込んでくのと、目の前で頭おかしい奴に殺されそうになってるのとじゃ全然違うんだって。
あのイカレ信者、序盤で既にこうなることが予測できてたんだから縛って倉庫にブチ込んどけば良かったのにと思いますが、これも主人公の判断ミス?
見ながらずーーーーーっと気になってたんですが、この主人公、何やっても裏目に出る。あらゆる選択肢、ぜーーーんぶ選択ミス。何で????
結局のところ、「現実にはヒーローなんてそうそういない」ってことなのかなと。
映画、特にアメリカの映画では、ヒーローものでなくても大抵主人公の男が非常時に突然リーダーシップ取り始めて、一般人の設定でも当然のように家族や仲間を護って、敵の正体を見破り、ライバルと和解し、敵を打ち倒してハッピーエンド。この流れです。
でもよくよく考えたら、こんなこと現実に起こるはずがないですよね。絶対とは言いませんが十中八九、善人も悪人も死ぬし、家族や友人も都合良く全員助かるなんてこともない。そこらの一般人が、大きな脅威に対していきなり勇気を振り絞ったって犬死にするだけです。
本作の主人公も、一見さもヒーロー然としていて、息子を守り、リーダーシップがあり、知恵を巡らせ、脅威に立ち向かう。キャラクター設定としてはアメリカ映画の「英雄パパ」そのものです。なのに、何故か悪い方へ向かっていく…ように見える。でも、これって「悪い方へ向かっている」のではなく、我々が「映画だから結局は上手くいくだろう」と勝手に思い込んでいるせいであって、ただのバイアスだよなーと。
定石通りのアメリカ映画を嘲笑うかのように、仲間を助けられず、信頼を得られず、家族を守れず、まったく役に立たない「一般人」のままの主人公で、自分は結構気に入りました。
賛否両論のラストも、そう考えればあれが妥当なんでしょう。というか、あのラストじゃなければここまで有名にならなかっただろうと思います。
原作者のスティーヴン・キングも、「自分が思いついていれば小説のラストもこうしたのに!」と言うほど気に入ったそう。小説で読んだ方がより面白そうな気がします。まず虫がね…
胸糞ENDと言われてますが、ただ1つ言わせてくれ。
あんな小さい子の頭なら、大人と頭くっつければ多分1発で2人いけたぞ。