「自衛隊イラク派兵が違法判決を受けたというのに映画を観ていてもいいのか?!」大いなる陰謀 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
自衛隊イラク派兵が違法判決を受けたというのに映画を観ていてもいいのか?!
メッセージ色が強すぎることや、ほとんどが会話を読むことに集中させられるという、ちょっと変わった映画だった。ドラマチックな展開もごくわずか。それでも「今、言わなきゃいけない」というロバート・レッドフォードがメガホンをとった心意気を感じるのです。折しも4月17日に名古屋高裁での違法判決が初めて下されたという新聞記事を読んだばかりで、イラクからの軍を撤退させたいとする映画の内容と妙に被ってしまいます。
新聞といっても、産経や読売などは不当判決と受けてめているようなので、意見の違いはそのままトム・クルーズ演ずるアーヴィング上院議員とメリル・ストリープ演ずるジャーナリストの議論にも通ずるのかもしれない。映画ではこの議論(とは言っても、独占インタビューなのだが)の他に、戦地へと赴いた学生(マイケル・ペーニャ、デレク・ルーク)のエピソードと、その2人の学生を心配する教授(ロバート・レッドフォード)と教え子(アンドリュー・ガーフィールド)とのやり取りという3本柱で構成されています。
トム・クルーズは大統領に一番近いと言われるほどの共和党議員。自分を信頼してくれているメリル・ストリープにプロパガンダともとれるイラク戦争における新作戦を提示。過去を反省しつつも戦争を終結するためには“勝つこと”だと力説する。Whatever it takes・・・。この2人のやりとりはそのまま共和党と民主党との議論にも思えるし、イラク戦争を肯定的に受け止めるアメリカ人への啓蒙メッセージにもなるのだろう。局に帰ったストリープがこのまま放送すべきかどうか苦悩するところも、マスコミが政府の宣伝基地になっていることを訴えてきているのでいい感じだ。
戦争に徴兵されたのではなく志願(volunteer)した学生2人。教授のクラスでは徴兵制について皮肉をこめて発表しているところも興味深いし、2人がヒスパニックとアフリカンアメリカンであることや最悪な地域で育った境遇についても考えさせられる。そしてベトナムの轍を踏むこともそれぞれの会話で語られている・・・そんなことわかりきってる!と思うけれど、ここまでハッキリと映画で語ることに意味があるのかもしれません。
何のための戦争なのか?!徴兵制、人種問題、マスコミ、政治・・・考えさせられるテーマがてんこ盛り。ようやくアメリカ内部から反戦の動きが出てきたのかと感じる良心的な映画ではあるけど、ドラマ性がないことと、最後には「想像してください」と言わんばかりの丸投げになっているところに評価が分かれるところ。名の売れた俳優ばかりだし演技についても文句はないし、特にトム・クルーズの嫌味な政治家ぶりが良かった。
それにしても、翻訳がやばい・・・誤訳もあったようだし、何しろ後半になってからの会話のキャッチボールが不自然すぎる。こんな字幕で理解しろというわけで???この“で?”によって翻訳者がわかってしまった・・・このおかげで減点せざるを得ない、あぁ・・・
【2008年4月映画館にて】