「アトムの世界」ブレードランナー ファイナル・カット とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
アトムの世界
実用ロボットが人型なのは日本だけだとどこかで読んだ。
手塚治虫先生の『アトム』の影響なのだと。
そんなアトムに通じる映画。
アトムも、人間とアンドロイドの狭間で悩んでいたし、奴隷化されたロボットの反乱やロボットの権利を求める展開を描いたものもある。
とはいえ、ハウアー氏、ヤングさん、フォード氏の名演によって、さらに”情緒”を刺激されて胸を打つ。
科学者の傲慢。人に近づけるロボット。科学者としては冥利に尽きるのだろうが、制作された”もの”としては…。
「人は殺していない」確かにそうなのだけれど…。
人殺しをしているような描写。
意思を持ったロボット。人間との差とは何なのか。
主人公はレプリカント狩りなのだけれど、レプリカントを知るだけに、何をもってして、人と人じゃないものと分けるのか。主人公の気持ちが揺れているところがやるせない。
デッカードもレプリカントという説があると聞いたが、デッカードが”人間”である方が、”命””人間”というものに、深い考察を与える。
神の領域。
アステカ神殿に似た本部。
エジプト・ピラミッドかと見まごう金色に彩られた映像・インテリア。
そんな中で何度も繰り返し現れる「強力わかもと」。胃腸薬なんだけれど、滋養強壮の効き目もある。監督はその中身まで知って採用したのか。その広告の女性がロボットっぽい表情をしているのがまた映画の雰囲気を掻き立てる。
チャイナタウンの雰囲気も、不老不死を求めた徐福を彷彿とさせる。
デカルトの言葉。
処女の守り神ユニコーン。
『ファウスト』に出てくるメフィストフェレスを彷彿とさせる警察のボスとデッカードを繋ぐ役目。導かれるのはダンテの世界か。
キリストの”聖痕”をもイメージさせる。
ロシアのモナリザとも称えられる絵画『忘れえぬ女」を彷彿とさせるレイチェルの眼差し。『黄金のアデーレ』にも似ている。
エリザベス1世かと思うような衣装。
『未知との遭遇』を彷彿とさせる光の洪水。
近未来な造形の中に織り込まれた古典。
雑多な中でのあがき。
だからこそ、SFとして現実世界とかけ離れた世界の物語ではなく、すぐそこにある物語とのめり込んでしまう。
鑑賞後、自分の生きる意味とかいろいろな思いが押し寄せて、雄たけびを上げてしまった。
原作未読。
他のバージョン未鑑賞。