「独特の世界感と考察の余地」ブレードランナー ファイナル・カット きーとろさんの映画レビュー(感想・評価)
独特の世界感と考察の余地
公開当時に観ていたなら映像の素晴らしさやSFの1つの定型を築くほどの世界感にさぞびっくりしただろうと思いますが、今見るとさすがに古さも感じます。ですが、古くても色褪せない名作もたくさんあります。本作以外にも気になったなら観てみることをおすすめします。
ビルの巨大スクリーンや街のアジア的なごちゃごちゃした感じなど、世界観が独特です。日本語の看板も多くておもしろい。しかし文化が入り混じった退廃的な雰囲気は、個人的には少し苦手だったりします。
主人公は逃亡したレプリカントを探し出して処理していくわけですが、セリフも少ないため、捜査状況がわかりづらいです。
写真の調査中に急に女性が現れるので混乱したのですが、あの世界での写真は3Dなのだそうです。
他に気になったのは間の取り方。1つ1つが長く、場面によっては鬱陶しさを感じました。近未来というと、もっとスタイリッシュなのかなと勝手に思っていたのですが、全体的に暗く重々しい雰囲気です。
更に途中でホラーチックになることに違和感。プリスとのバトルの際の音は声なのか効果音なのか…。私は人形やドールに恐怖を感じるので、J・F・セバスチャンの部屋はとても不気味でした。
VKテストは印象的でしたね。瞳のアップなど、絵的にも強い印象が残ります。人間が瞳孔でレプリカントかどうかを判断するからこそ、ロイはタイレルの目を潰したのかなと思いました。
タイレルのシーンの他にも、本作では痛みの描写が本当に痛そうで怖く、良かったです。
ロイ役のルトガーハウアーの演技が凄く好きでした。レプリカントなんだなと直感的に思わせるようなしぐさや話し方が素晴らしかったです。演技でキャラクターを完璧に表現していました。
彼がデッカードとの戦いの末にとった行動の理由はいろいろと考察されていますね。私としては自らが命の終わりを迎えるに際して、命の儚さと尊さを悟ったからだと考えています。その後のセリフも切なく強く印象に残ります。狂気的な面と情緒的な面の両方を見せてくれます。レプリカントと人間に差なんてあるのか、ひいては人とは何かを考えされられるシーンでもありますね。白鳩が飛んでいく描写も良かった。鳩を掴んだまま向かってくる姿には少し笑ってしまいましたが。
レイチェルも自分が人間だと思いこんでいたレプリカントということで、魅力的な人物です。ただ、主人公との恋が急すぎて受け入れがたかったです。映画ではままあることではありますが。
ガフの折り紙での表現が好きでした。ラストではユニコーンの折り紙を残し、デッカードの夢及び記憶にユニコーンが登場することを知っていることを示します。つまりは彼に埋め込まれた記憶を知っている。デッカードがレプリカントであることを示唆させています。
私は正直観ているときはデッカードがレプリカントだなんて毛ほども思っていなかったのでびっくりしました。ラストの折り紙は単に見逃してやるという意味だと思っていました。
他にもレプリカントは記憶がないために不安定になりやすいのですが、記憶の裏付の為に写真を大切にします。ロイやレイチェルも写真を重要視していました。そしてデッカードもピアノの上にたくさんの写真を飾っていました。これも彼がレプリカントではないかと考えられる根拠になります。
本作の魅力は独特の世界感とセリフ、レプリカントという存在、そして考察の余地が多いことにあると思います。ストーリー自体は荒削りですが、自分なりの解釈を見つける楽しみがある作品です。