劇場公開日 2022年12月30日

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「いつも雨、雨、雨 。」美しき小さな浜辺 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0いつも雨、雨、雨 。

2025年3月3日
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鑑賞方法:VOD

モジリアニを演じて以来、彼は肺病と精神の病なのか・・
病弱なジェラール・フィリップ演じるピエールの寂しき”帰郷“の物語だ。

犯人は現場に戻るらしい。
辛い過去や、記憶の彼方に消し去ってしまいたい想い出も
たぶんあの時も降っていただろう蕭々と降る雨に誘われてか、彼は”そこ“に還ってきてしまう。

「恥じることはないわ、屈強な男でも泣く。誰でも辛い」。
女給のマルトはそうつぶやく。

日本でも類似する映画がたくさん作られていた時期なのだ。
まだたくさんの戦災孤児がいたあの頃には、このモノクロのスクリーンに、説明無用で涙を流した当事者たちが大勢いたのだと思う。
破滅の映画もたくさん有ったし、孤児たちをなんとかして鼓舞したい「トンガリ屋根の唄」もみんなが歌った。

海岸の岩屋に忍び込み、かつて宝物を隠しておいた壁のレンガを一枚剥がすピエール。
ほんの少ししかなかった少年時代の愉しみを、そこに確かめてから、彼は人生の終局に臨もうとしているのか。
初めて、一度だけ笑ったピエールの横顔が哀しかった。

総じて遅々として進まないストーリーであったが、それ故にラストのカメラは「壮絶なスピードでの逆回し」が意表を突く。
逆回しだから、カメラマンの足跡も、そして哀しい孤児の足跡も、どこにも残らない。
誰からも愛されなかったピエール。その彼の戻らない過去を、残酷に見せる浜辺のシーンだ。

きりん