劇場公開日 2022年12月30日

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「【”孤独なる僕の唯一の居場所、それが美しき小さな浜辺だった・・。”孤児院育ちの哀し気な表情の青年が、巴里から久しぶりに戻った小さな町で過去を振り返る日々を描く作品。】」美しき小さな浜辺 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【”孤独なる僕の唯一の居場所、それが美しき小さな浜辺だった・・。”孤児院育ちの哀し気な表情の青年が、巴里から久しぶりに戻った小さな町で過去を振り返る日々を描く作品。】

2024年9月5日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

ー 冒頭、青年が安宿屋にトレンチコートを濡らしながら現れるシーンから、ラストまで曇った空の下、雨がしとしとと降り続ける。
  陽光は、一度として出ない。まるで、孤独なる哀しき青年の人生のように。-

◆感想<Caution!内容を書いています。>

・今作は、青年ピエールを演じるジェラール・フィリップの哀し気な表情に魅入られる作品である。

・ピエールが安宿に入って来て宿帳に記入している際に、ストーブに当たっている老人だけが彼の顔を見て、過剰に反応する。だが、その老人は口が利けないのか、椅子をがたがた言わせるだけである。

・ピエールは、宿の若く美しい女性マルトの案内で2階の部屋に通され、疲れたから夕食は要らないと言い、濡れたコートを着たままベッドに俯せに臥し、涙するのである。

・翌日からも、ピエールはトレンチコートを着て雨が降る外を歩く。宿の人達は、”精神を癒すために来たのよ”と言っている。

・ピエールは宿の食堂でワインを飲んでいると、常連客達が”巴里で女性歌手が殺されたそうだ。ほら、この流れている曲を歌っている女だ。”と話しているのを聞き、衝動的に、曲を掛けているレコードプレイヤーをカウンターから叩き落とし、ワイングラスを握り割ってしまう。
 そして、美しき小さな浜辺にある彼が若い時にその宿で働いている時に作った粗末な小屋の中で、マルトに傷の手当てをして貰う。ピエールはマルトの肩に顔を埋めるがそれ以上は何もしない。

・ピエールは、宿で働く16歳の少年に独り言のように”自分も君と同じようにこの宿で働いていたが、ある日来た女性歌手に連れられて巴里に行った。酷い5年間だったよ。取り巻きが沢山居てね。それで、僕は彼女を殺したんだ。”と呟くのである。
 だが、少年はその言葉を聴いても、余り驚いた様子を見せない。
 ピエールが、夢を持って女性歌手と巴里に行き乍ら、結局は彼女の燕だった事を示しているようである。
 そして、少年も毎年来る中年夫婦の女と、良い仲になっているようである。
 ピエールは、少年が美しき小さな浜辺で貝を拾っている所にやって来て、優し気に語り掛けるが、少年は反応せずに、何処かに行ってしまう。まるで、自分はピエールとは違うとでも言っているように。

・ピエールを追って中年男がやって来る。男はピエールが女歌手を殺した時に、宝石を奪ったと思っており、二人はもみ合いになる。
 ピエールは取っていないと言い、男は自動車修理工の家で、警察に電話を掛ける。

・ピエールを案じ、マルトは知り合いのジョルジュに頼み、ベルギー行きのトラックに乗せて貰うように頼む。ピエールはジョルジュの家でパンを貰いながら待つが、寝てしまったジョルジュを置いて、再び雨の中、外に出る。

<ラスト、ピエールは雨が降る中、美しき小さな浜辺の粗末な小屋に入って行く。その後、少年がその部屋に入って行くが、財布らしきものを捨てて出て行ってしまう。
 そして、浜辺には中年夫婦がやって来る。
 カメラは、二人の姿を捉え乍ら、ショットをドンドン引いて行きエンドとなる。
 今作は、何とも陰鬱な映画ではあるが、若きジェラール・フィリップの哀しくも不可思議な魅力に溢れた作品である。>

NOBU