フランス式十戒

劇場公開日:

解説

サイレント時代から今日にいたるまで数々の名作を世におくったフランス映画界の代表的監督ジュリアン・デュヴィヴィエが、昔から伝わるキリスト教徒の「十戒」のそれぞれについて、独創的な考察を加え、現代風俗の中にえがきあげたもの。内容は八つのエピソードに分かれ、それぞれを蛇の姿をした“悪魔”の狂言まわしがつなぐという趣向。ルネ・バルジャベル、アンク・ジャンソン、ミシェル・オーディアール、パスカル・ジャルダンなど一流脚本家たちの協力のもとに、デュヴィヴィエ自身、脚本を執筆している。出演者は現代フランス映画界の代表的なスターのほとんどの者が、出演している。「太陽はひとりぼっち」のアラン・ドロン、「女猫」のフランソワーズ・アルヌール、「血とバラ」のメル・フェラー、ダニエル・ダリュー、ジャン・クロード・ブリアリ、ダニー・サヴァル、フェルナンデルなどが出演している。撮影は前作「火刑の部屋」でもデュヴィヴィエをたすけていたロジェ・フェルー。八つのエピソードを通じて新進のジョルジュ・ガルヴァランツ、ギイ・マジャンタ、ミシェル・マーニュの三人が音楽を分担している。フランスコープ。

1962年製作/フランス
原題または英題:Le Diable et les 10
配給:東和
劇場公開日:1963年9月28日

ストーリー

〔「なんじ神の名をみだりに呼ぶなかれ」〕修道院の雑用係をしているジェローム(ミシェル・シモン)老人の口癖は「神もヘチマもあるものか」だ。十戒にも「神の名をみだりに呼ぶなかれ」とあるように、この癖はどうにも具合が悪かった。この癖が因であわや追い出されようとした時、小学校時代の同級生であった司教様(L・バル)が訪れ十戒を記憶するよう命じた。昔から記憶力の悪い老人、そのたびに口をついて出るのがなんと“神もヘチマもあるものか” 〔「なんじ姦淫するなかれ」「なんじ結婚のほか肉の行いを求むるなかれ」〕悪魔が人間を誘惑する武器は……女。ダンクール青年(アンリ・ティゾ)もこの悪魔の化身に魅入られてしまった。“タニア”(ダニー・サヴァル)それが女の名。青年は女をもとめてクラブに通いつめた。二八回目の夜ついに女は彼の前から姿を消した。アドレスを頼りに捜しあてたのは立派なビル。何と彼女は管理人ポロ(ロジェ・ニコラ)の妻君モリセットだった。青年に奥方を絶讃されたポロ、買物かごをさげて帰ってきた妻をみて一人喜ぶのだった。美しい夢を抱いて来た青年は、まさしく管理人のおかみさんになりさがったタニアをみて、あわてて退散した。 〔「なんじ殺すなかれ」〕麻薬にむしばまれ身体を売り、力つきた女が、遺書を修道院にいる兄ドニ(シャルル・アズナヴール)にたくして自殺した。復讐の決意に燃えたドニは僧衣を脱ぎレストランのボーイになった。友人の刑事ルイ(モーリス・ビロー)の協力を得て、街の顔役ガリニーに、ボーイのドニは売春強要、麻薬、人身売買の証拠をつきつけた。案の定手帳を買い取るというガリニーを自室に呼び寄せたドニは、手はず通り友人の刑事に手渡そうとした。その時足もとの猟銃はドニをめがけて火をふいた。入れかわりに入って来た刑事ルイはガリニーの手に手銃をかけた。全てドニの計算通りだ。「うまくいった……」ドニはそのまま、こときれた。 〔「なんじ人の持物を欲するなかれ」〕フィリップ(メル・フェラー)は恋人ミシュリーヌ(M・プレール)に高価な宝石を買い与えた。勿論別れ話の手切れ金のつもりだ。宝石は女には不思議な魔力を示すもの。フィリップが次ににらんだのは、ミシュリーヌの友人のフランソワズ(フランソワーズ・アルヌール)。彼女もゴージャスな宝石のとりこになって即座に彼の恋人になった。そのため夫にそれを認めさせるために大芝居をうたなければならない。すなわち安物のネックレスを二ダース買い本物をその中にまぎれこませてバッグに入れ、駅の一時預りにあずける預り札を拾ったワ……よし俺がとってくる……とりにいった夫が中をあけてナーンダ安物だ……。これで成功するはずだった、が彼女の留守にミシュリーヌが来て、これを見たのが運のつき。帰って来たフランソワズがみたのは、友人の胸にさんぜんと輝くダイヤだった。 〔「われはなんじの主なり。われを唯一の神として礼拝すべし」〕黒いマントにチェックの襟巻、異様な男(フェルナンデル)が一軒の家に入って行くのを見た少女は男に尋ねました。「あなたはどなた?」「神様だ」側で聞いていた老婆(G・ケルジャン)今苦労の連続だった一生を閉じようとしている彼女にとって、神様など信じられる筈もなかった。男はやさしく愛を説いた。「不信心者よ、ためしに奇蹟をみせようか、ではお前を若返らせてやる」と言った男は、「お願いです。生きるのは一度でたくさん」と叫ぶ老婆の前に歩み寄り「立って歩め」と叫んだ。三度目老人は立ち上り数歩歩いた。六十年間歩む事を忘れた老人の足が動いたその時、老婆は、安らかに息をひきとった。奇蹟を信じた幸せな最期だった。男は春風にマントをひるがえして去って行った。男の後から走って来た自動車が“精神病院”の四字を鮮かに残して、男を乗せて走りさっていった。 〔「なんじ父母をうやまうべし」「なんじ偽証するなかれ」〕青年ピエール(アラン・ドロン)の憂うつは、父母の仲が悪いことだ。くさった彼は、不満を父親(ジョルジュ・ウィルソン)にぶちまけた。その時父親がもらした一言「あれは本当の母親ではない」に大きなショックを受けた。本当の母親は名女優クラリス・アルダン(ダニエル・ダリュー)だと言うのだ。パリに飛び母と面会したピエールは「パパに遠慮は御無用よマルセルは本当の父親じゃあないんだから」十六歳の頃子供を生んだ憶えはあっても父親が誰か思い出せないというのだ。二度ショックをうけた青年。わが子でない子の失跡を心配している家庭へ帰ってゆくより仕方がなかった。 〔「なんじ盗むなかれ」〕ディディエ・マラン(ジャン・クロード・ブリアリ)は本日をもってクビを言い渡された銀行員。とその日窓口にピストルをつきつけてゼニを出せとすごんだ小男。彼と顔見知りの寺男バイヤン(ルイス・ド・フュネス)だ。一儲けしようと思いついたマランは札束を鞄につめて、逃がしてやった。警察が必死の捜査を続ける間、彼はバイヤンの家に忍びこみ鞄をもって逃亡した。犯人のバイヤン、被害者のディディエ、しばらくにらみ合った末“よしヤマ分けでゆこう”というわけで、ヤットあけた鞄の中身はブドウ酒とソーセージ。ディディエの立ち寄ったカフェでとりかわってしまったのだ。 〔「なんじ安息日を聖とすべし」〕十戒を憶える仕事を背負わされたジェローム老人(ミシェル・シモン)。日曜日もさかんに十戒をやっています。そのあいの手はブドウ酒。「おーい、酒だ!」そのたびに家政婦のディルフィーヌ(M・クレルバンヌ)「今日は安息日なのに……なんのために十戒をおぼえているのやら」と嘆息すること、しきりです。

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