「“ある子供”に責任感が芽生えた時。」ある子供 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
“ある子供”に責任感が芽生えた時。
「草食男子」が流行っている(?)現在、本作の主人公はまさに「草食男子」の典型だ。「草食男子」の大きな特徴は、“物欲の無さ”と“優しさ”だ。定職に付かず自分より年下の少年たちと盗みを働いてその日暮らしをしているのは、基本物に欲がないからだ。欲望の無さは野心の無さ。大金を掴みたいとか、いい女と寝たいとか、小さな欲望すら無いから、こんな現状から抜け出そうとも思わない。だが彼はとても優しい。盗みは働いても人を傷つけることはしない。自分の子供を産んだ若い恋人に、ペアのジャケットを買ってやる。「認知してね」と言われると「いいよ」と言う。そう、彼は人から物を頼まれると断らない。そこには“優しさ”以上に“無知”という最も厄介な要因があるのだが・・・。タイトルの『ある子供』とは生まれた赤ん坊ではなく、彼自身のことを指している。彼はお金のために自分の子供を売るという非人道的な行為をしてしまうが、それは悪人だからとか、無責任だからとかいうのとは全く違う。もし彼が悪人であり、無責任な男なら、妻と子供を捨てさっさと姿を消すだろう。無責任というのは責任を取ることを拒むこと、つまり責任を取る重大さを知っているということ。しかし彼の場合は父親になるという責任を全く知らず、子供は彼にとって犬や猫と一緒なのだ。20歳の男のこの未熟さを一方的に責めることはできない。彼の周囲にそれを教えてくれる人も、それ経験する機会も無かったのだから。男性の場合、自らがお腹を痛めて子供を産むわけではないので、父親の自覚が無いのはなおさらだ。それに比べ、18歳の彼女には早くも母親の自覚が生まれている。彼から子供を売ったと伝えられた時の絶望。思わず気を失う彼女を見て、彼も徐々に事の重大さに気付き始める。あわてて子供を取り戻す彼は、やはり優しい人間なのだ。代償として大金が必要になり追い詰められた彼は、ひったくり(ここでも強盗などの大きな罪を犯さないところが草食男子たるゆえん)をしたため、相棒の少年が補導されてしまう。少年を助けるため、自首する彼は、やはり優しい人間なのだ。この一連の事件から、彼の中に芽生える責任感と自責の念。面会に来た彼女の前で号泣する彼に、未来はあると信じたい・・・。