「カルト」4人の食卓 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
カルト
知らなかったのでぐぐったが明瞭な評価を見つけられなかった。A Table for Fourだと見つからないしThe Uninvitedだと箪笥のリメイクが出てくる。
imdb5.7、トマトメーターは付いておらずオーディエンスが54%だった。他の海外評価サイトでも旗色は良くなかった。
シネマジャーナルというサイトの古い記事を見つけた。
監督のイ・スヨンが来日しインタビューに答え、映画をノベライズした大石圭と対談をしている。
小説を映画化したのではなくイ・スヨンが書いて撮った映画「4人の食卓」を大石圭が小説化したという逆展開も驚いたが、監督は女性で初監督だった。
ぞくぞくする映画だった。
構図もきめるし情報量も多いし独特の陰影とスタイルがあり、まるでいいときの黒沢清のようだったが、解説には『監督・脚本はこれが長編デビューとなるイ・スヨン。』とあった。
はじめて映画をつくって“いいときの黒沢清”みたいな映画ができる。──というのもすごいが2003年のあたりはちょうど韓国映画が勃興しはじめた頃だ。
80年代90年代あたりまで韓国映画といったら鯨とり(1984)しかなかった。ほんとです。それが90年代終わり頃からパーッといっぺんにすごい映画が出てきた。だいたいペパーミントキャンディが起点でそこから子猫をお願いや“春夏秋冬そして春”や殺人の追憶や箪笥やオールドボーイやシルミドやJSAや、エンタメ系でも猟奇的な彼女とか花嫁はギャングスターとかセックスイズゼロとか彼女を信じないでくださいとか、カメ止めが毎年幾つも出てくる感じの百花繚乱ぶりだった。4人の食卓もそんな勃興期のひとつだったといえる。改めて韓国映画の底知れなさを感じたし、4人の食卓は恐ろしくて悲しくてやるせなかった。
なおイ・スヨン監督は2017年にチョ・ジヌン主演でやはりじわじわな怖さのある「犯人は生首に訊け」を撮っていて作風の一貫性が感じられた。
4人の食卓の主人公は旧世代には顔なじみなパク・シニャン。
きらいではないが個人的にはヘンタイに見える。笑
共演がチョン・ジヒョン。じぶんの世代だとジヒョンといったら猟奇的~ではあるが、他作品やインタビューなどを見て素地はおとなしい人なのだろう──とは思っていた。この映画はおとなしいほうのチョンジヒョンで、本領はおそらくこっちだと思った。
この映画の個人的な解釈だが、ジョンウォン(シニャン)は幼少期の虐待の記憶と亡くなった妹の記憶がトラウマになっている男で霊に憑かれぐせがある。
闇を背負っている者は霊に慕われやすく街などにいる霊に憑かれてそれを家や部屋に持ち帰ってくる。が、彼には霊力がないので、霊は見えず霊は圧迫感や不安や悪夢となってそこに住み続ける。
ユン(ジヒョン)は恐ろしい子ごろしを目撃して精神科にかよいつめる主婦だが彼女には霊力があり嗜眠症を患っている。
嗜眠症とは(よく知らないが)ふいに気絶する病気で、ふいに気絶したところをジョンウォンに助けられ、ジョンウォンの家で彼に憑いている子(の霊)を見つける。
その子らが、ジョンウォンのフィアンセが設えた“モダンすぎて在庫になっていた”ダイニングセットに座ったまま眠っているのを見たユンは何気なく「あの子らをベットに寝かせてあげてくださいね」と進言する。
それが白眉になっていて、ジョンウォンには霊力がないから見えないものの、常に重く垂れてくる不安を感じているところへ「子をベットに寝かせてあげてください」と言われ、思い当たるものを感じて愕然とする。
たとえば、わたし/あなたには同居者がいないのに、誰かを部屋にまねいた帰り際に「彼女がいるのに悪かったね」とか「おとなしい子だね」とか「おばあさんによろしく」とか言われてしまったときの恐怖。そういう恐怖を丁寧に拾って積み上げていくホラーだった。