「月面中継の裏方物語」月のひつじ odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
月面中継の裏方物語
人類初の記念すべき月面着陸の映像を伝えたオーストラリア西南部のパークス電波天文台の裏話である。原題はThe Dish(パラボラ・アンテナ)、邦題の羊は天文台が長閑な牧羊地帯だったことに掛けているのだろう。ドラマ仕立てのために随分と脚色されているので真に受けない方が良いだろう。
受信施設は北半球がカルフォルニアのゴールド・ストーン、南半球がオーストラリアの3施設(キャンベラ、パークス、ハニー・サックルクリーク)が使われた。当初月面からの受信はキャンベラがメインだったが月との位置関係で映像の綺麗なパークスがメインとなった。
当時のカラーカメラは重かったので小型のモノクロカメラ(約3Kg、解像度320本10フレーム/秒)が使われた、映像は月着陸船イーグルに取り付けた66㎝のアンテナから携帯電話並みの2GHz帯の電波で地球に送信された。これを直径64mの大型パラボラアンテナで受信後テレビ受信機用に変換され、地上マイクロ回線、衛星回線を経てヒューストンへ送られた。不都合な事故の場合は随時切断できるよう放送用には6秒のディレーがかけられていた。最初の映像は天地が逆(カメラのイーグルへの取り付けミス)だったので地上で急遽反転させたというエピソードもある。劇中、停電でアポロの位置データ喪失のアクシデントがあるがフィクションである、重要な電子機器はバッテリーバックアップによる無停電化(UPS)が常識であり非常用発電機を起動できなくとも短時間なら支障なく設計されている。アポロとの交信は他局がメインだったので支障はなかったにせよトラブルを隠ぺいする脚色は如何なものか。一時、風速30mの強風が吹いたのは事実、持ちこたえたのは奇跡に近かった。本作はオーストラリア映画であるが自虐風に作った真意がよくわからない。
参考:1970年テレビジョン学会誌4月号「宇 宙 船 か らの テ レ ビジ ョン中継」著:丹羽登