「傑作と言っていい。」追撃者(2000) zippo228さんの映画レビュー(感想・評価)
傑作と言っていい。
人間味のあるアクション映画としてみた場合、傑作だと言えます。
公開当時のレビューでは「はらはらドキドキしなかった」とか「オチがない」とか、変な感想が多く見かけられました。これはジャンルを勘違いしていたお客が多かったという事であり、スタローンのアクション映画ならド派手な展開なんだろうと思い込まれていた事によります。
しかしこの映画は地味な作風の、人間ドラマを重視した作品であり、むしろスタローンがランボーをやる前の、70年代以前のハードボイルドな作風だと思った方が正しく鑑賞できます。
スタローン自身は筋肉美をいかしたスーパーアクションの主演を続けてきましたが、ロッキーで有名になった当初は、70年代からのアル・パチーノやデ・ニーロの後ろを行くようなスター路線を目指していました。このため自身が50歳を越えた辺りからイメージチェンジをはかり、ヒューマンドラマ路線に戻ろうとしたのが本作となります。
結果として、スタローン自身の人気が下降していた事もあり、本作の地味な作風は世間に認められずヒットしませんでしたが、映画作品として見た場合にはとても良質な作品だと言えます。
90年代中頃からタランティーノによって始まった70年代リバイバルの風潮も、本作の企画には関係していると思われ、1971年の「狙撃者」をリメイクしたものとなっています。
しかしオリジナルと見比べても、本作は独自の現代的なセンスで作られたものとなっており、大まかなストーリー以外には違った質の作品になっています。
当時のスタローンはスターとして人気が落ち、ロッキー・ランボーの続編で復活する前の低迷期にありましたが、本作での監督の演出には、よーく見るとそんなダサい存在になっていたスタローンを茶化したような撮り方をしている事が見受けられます。そんな監督のセンスも本作の主人公の設定と相まってうまく効果が出ています。
この映画は人生の折り返し地点に差し掛かったマフィアの男の話であり、スタローン自身が今まで暴力的な映画を作り続けてきたことの、慚愧の念と重なるところもありました。
この作品によって新たなスタローンの側面が見られたのですが、残念ながら興行的には失敗してしまったため、この路線はこれで終わりとなります。これ以降の熟年となったスタローンはロッキー・ランボーの続編でスターとして復活をはかり、自身が築いてきたスーパーアクション路線に戻る事となります。
これと同時期に制作された「オーシャンズ11」などを見ていると、70年代風のリバイバルスタイルの作品という事でBGMまでリバイバル風にしている事が印象的ですが、本作では2000年代当時最新のクラブジャズを採用しており、これみよがしなリバイバル風の作品作りはしていません。あれから20年以上経った今となっては、本作の方が映画作品としての品格が備わっており、鑑賞に耐えるものになっている事がわかると思います。