私の夜はあなたの昼より美しいのレビュー・感想・評価
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80年代後半、つまり現代のパリ。 コンピュータ技師のリュカ(ジャッ...
80年代後半、つまり現代のパリ。
コンピュータ技師のリュカ(ジャック・デュトロン)は、新種のウィルスに脳が冒されていることが判明、日に日に言葉を忘れていく状態となった。
食い止める術はなく、リュカは常に何らかの言葉を発していなければならなかった。
そんなある日、カフェでサングラスをかけた美しい女性ブランシュ(ソフィー・マルソー)と偶然出逢い、ふたりはたちまち恋におちるが、そう簡単にブランシュを捕まえることはできなかった。
彼女は、透視霊能を売りにしてステージに立ち、セレブたちの間で引っ張りだこだったのだ。
通常、そのようなステージ芸はペテン、にせもの、タネがあるのものだが、ブランシュのそれは本物の透視能力のよう。
そのため、彼女の精神バランスは常に危ういところにあった・・・
といったところからはじまる物語で、リュカとブランシュの恋愛が成就するかどうかといった内容。
そういう意味では、物語的にはわかりやすい。
さらに、アンジェイ・ズラウスキー監督作品にしては、混乱・錯乱描写が少なく(といっても、他の監督作品ならば、本作でも十分な多さだろうが)、それほど混乱しない。
原作があるからかもしれないが、ドストエフスキーの『白痴』に基づいた『狂気の愛』の混乱度は甚だしかったので、それよりも物語の骨子によるところが大きいのかもしれません。
つまり、映画の前半でリュカとブランシュの過去がフラッシュバックとして描かれ、ふたりの破滅的な愛は、実はリュカとブランシュを過去へ誘う愛でもあり、過去への追憶、追慕、妄執のようなものが根底に流れていることで、騒々しい中にもある種のノスタルジック、囚われた想いのようなものを感じるからであろう。
過去の物語の中心は、リュカのものであり、両親の水死が深く横たわっている。
幾度となく登場する水のモチーフが、一連のイメージとして印象を残している。
また、リュカが紡ぎ出す言葉のイメージは韻律、語呂合わせのようなもので、奔流となって流れる言葉は、意味はさておきフランス語で聴くと、そのリズムがある種の心地よさを呼び起こします。
この言葉の本流は、ゴダールも頻繁に使う手法だけれど、ゴダールのそれは、やはりゴダール自身の言葉として表出しており、主人公の口から自然と出た感が乏しい。
それに比べると、本作ではリュカの言葉として描かれ、出てくる言葉の脈絡のなさもひとつの魅力となっている(ときおり、過去の映画のタイトルと結びつき、ドゥシャン・マカヴィエフなんていう監督の名前まで飛び出す)。
最終的にリュカとブランシュの破滅的恋愛は、破滅的な形で成就するが、これはこれでハッピーエンドなのだろう。
なお、リュカが滞在するホテルの小人のポーターは、もしかしたら死んでいるという設定なのかもしれず、そういう視点で見ると、また面白さが増すかもしれません。
とはいえ、万人にお勧めできる類の映画でもなく・・・
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